55話
「一体どうして、あんな面倒くさい奴が僕から生まれたのか。全く持って不思議だよ」
親の呑兵衛でだらしない姿を見てきたせいで、そんな性格になったんではなかろうか。いわゆる反面教師というやつだ。
「せっかくだから、ちょっと醸造作業のついでに昔話しようかな」
帝国の主神の名前を出したせいで、ミトソは色々と思いだしたようだ。神自身からその来歴を聞くというとんでもない事柄を、アルマは聞かざるを得なくなった。
「あれは80万年前……いや、世界創造は僕に関係ないから7万年前か。熟れて地面に落ちた果物から変わった香りがしてきたから僕は生まれた」
聞いてても意味不明だが、とにかく神と言うのはそういう風に自然発生するものなのだろう。突っ込んだらキリがなさそうな長い話になりそうだ。
「最初はそうした地面に落ちた腐りかけの果物が美味しい事に気が付いて、その汁だけを飲もうとして出来たのがお酒って訳。昔は人間たちも他の動物と大して変わらなかったけれど、好奇心だけは旺盛だったみたいで、その内僕の真似をするようになった」
それがこの世界の人類の酒の起源の話なのだろう。
「で、自分で酒を造るのが面倒になってきたんで、色々おぼえ始めた人間から酒を貰っていたらそいつらが僕を神として崇め始めた。それから定期的に酒を献上してくれるようになったから、あの頃は随分楽しかったな。好きなだけお酒が飲めてたし」
準備が終わり、まずは残った葡萄を全て濾していく。そうしたら一度ミトソの力でワインに発酵させる。
「そうやって過ごしていたら、今度は他の色んな神を崇めてた人間たちが勝手に争い始めた。自分たちの神が本物とか言い出して。僕や他の神々は面白そうだったから、それを眺めていた」
人間の争いを止める気はなかったらしい。あまりに自分勝手だが、他の神々も大概だった。
「その争いにやがてまた別の神を崇めていたドワーフやエルフたちも加わって争いは続き、その中で酒を飲む人間が増えていくと、僕から別れた身体の一部から新しい神が生まれた」
「その神がエグノールス神だったわけね」
酒は憩いの嗜好品でもあるが、酔っぱらって粗暴になる人もいる。多分そういう人間が争いの中で増えて来たのが生まれた理由なのだろう。
「そうそう。で、その癖そいつは妙に目立ちたがりな奴で、積極的に自分を崇めてる人間たちに力を貸して一つの国を作り始めた」
それが帝国の起こりなのだろう。戦乱の中、他の国を吸収し大きくなって今の帝国がある。そして今でもまだそれは止まっていない。
「他の神々と共に僕を崇めていた人間も、奴の信者どもに追い立てられて数が減っていくと、神々と僕も力を失って、地上に下りなきゃいけなくなった。それでしょうがないからまた自分で酒を造っていくことになったけれど、エグノールスはそれを嫌った」
その結果、帝国法が生まれたのだろう。帝国法はとても制約が多い。きっとそれは他の神々が力を取り戻すのを阻止するために、考案されたものなのだろうとアルマは思った。




