53話 帝国の思惑4
帝都のブランドハウスの屋敷。ジャバー・シャット―が身体を上等なソファに預ける。最近は特に疲労感が取れない。エルフとの戦争が長引いてる事が原因かもしれない。考えるだけで頭が痛くなってくる悩ましい問題だった。
「はぁ……騎士団まで投入して、成果らしい成果もないまま数年も経っている。南方の蛮人の襲撃もあるのに、ドワーフからの供給だけじゃ賄えないわ……」
ミィジー・グレーンがため息交じりに呟く。帝国を維持するのにエルフ達の住む領域は必要だった。国民が増えなければ国は繁栄しない。しかし増えた国民を養えるだけの土地や資源が必要となってくる。エルフたちの土地は未だ手つかずで開拓の余地がある。喉から手が出る程欲しい開拓地候補だ。
帝国は確かに強大だ。だが、そのために多くの物を犠牲にしてきたのも事実だった。その土地の習慣、信仰、文化……今までの物より帝国の者が優れていると思わせる為に、それらを帝国式に強制させた。当然反発する者も多くいるだろうが、帝国法で睨みを利かせて押さえつけて来た。そのやり方についても、元老院のブランドハウスの間でも意見が分かれている。
「このままでは反対派の意見が強くなる。最悪撤退することになれば、帝国の威信は地に落ちるというのに……」
ボン・ブランディスも渋い顔で呟く。まるで出来の悪い酸っぱい葡萄酒を飲んでいる時の様な顔だとシャット―は思った。
「ええい、そんな顔をするな! またあの不出来な葡萄酒の味を思い出す! 例の修道院の葡萄酒を出してくれ!」
最近はそこの修道院で醸造されてる葡萄酒ばかり飲んでいる。もはや他の場所の葡萄酒では満足できなかった。
「あまり飲み過ぎるのは身体に毒よ」
「むしろ活力剤さ。この葡萄酒を飲み続けたいがために、帝国を繁栄させたいくらいだ」
ミィジーの言葉にシャット―は笑って返答した。
飲酒は貴族のみに許された特権。貴族たちは帝国の為に一番頭を働かせて尽くしている。だからこそこうした恩恵にあずかれるのだ。責任に比例した権利。帝国法はその原則をによって厳格に定められている。
「そればかりだな。確かに美味いが、どうして今まで出来てなかったのが不思議なくらいだ。いや、過去には領主がこの味に惚れ込んで献上していた記録がある。またその製造法を変えたのかもしれん」
「エルフの国を占領したら、真っ先にここの葡萄酒を造らせよう。ブランドハウス御用達の高級葡萄酒を!」
ブランディスは呆れた表情をシャット―に向ける。すっかり葡萄酒の虜になっているようだ。
「それもいいが、だからと言って飲み過ぎでくたばってくれるなよ。帝国の統治という使命が我々にはあるのだから」




