52話
「うーんなんか不思議だな」
馬車を操りながらミトソが呟く。アブールに別れを告げて旅を続けるが、その途中で不意にそう漏らした。
「不思議って?」
「元々思い付きでエルフの国にでも向かおうと思ってたのに、こうして向かう理由が出来た。まるで誰かがそうさせたように。おかしいと思わない?」
帝国では醸造は違法だから酒の醸造がばれないように、どこか場所を探すのがこの旅の目的だった。それでミトソの、酒の神の思い付きで西方のエルフの国を目指すことになったのだが……。
「そもそも、私は酒飲みだった前世があるのよ。あなたが私に酒を造らせる為にこの世界に呼んだと思ってるんだけど?」
「それならちゃんとした醸造家を呼ぶよ。でも生憎、別政界から人間を呼び出すなんてそれほどまでの力は今の僕にはないし、各地を転々として酒の材料を集めて細々と生きて来たんだから」
まさか、葡萄の事といいそこらの農家から酒の材料を盗みながら各地を放浪していたのではないだろうか? 手癖の悪い神様だとアルマは思った。
「エルフの連中は長寿だからね。昔まだそこまで帝国と直接やり合ってない頃に行った事があるから、その時の顔見知りがいるかもね。元々争い自体は好まない温厚な種族だったはずだけど、ドワーフたちと違って帝国の傘下に入ることを拒んで。戦争状態になるとは思わなかったよ」
エルフのイメージは知的で物静かな雰囲気の種族だ。この世界のエルフはどうか知らないが、それでもやはり彼らを知っているミトソにも意外な事らしい。
「それで、行く手段の当てはあるの?」
「そこが問題なんだよね。まさか戦場を通って行くわけにもいかないし、後は……」
方法はありそうだが、ミトソはあまり言葉を濁して答えない。何か理由があるのか?
「手段が他にないなら今出来る事でやるしかないでしょ」
「うーんそうだね、仕方ないや。じゃあそれまでに準備をしておこうか」
アルマの言葉で諦めたようにミトソはその残された手段を行う事にした。
「準備って?」
「手元にある葡萄、全部蒸留酒にするんだ。葡萄酒でもいいけど、そっちが確実だろうから」
何故アルマニャックが必要なのだろうか。それがどうしてエルフの国に行くのと関係があるのか?
「もう少しでエルフの国との国境に一番近い街がある。そこなら軍に物資を送ってる商人もいるはずだ」
「それで?」
「蒸留酒を使って商人に頼んで戦争地帯に入る。そこから直接エルフの国に入るんだ。最悪死ぬ可能性もあるけど、アルマも覚悟を決めてるみたいだからそれで行くよ」
アルマは言わなきゃよかったと今更になって後悔した。




