50話
「なんと、せっかくできた葡萄酒を戻してしまうのか!?」
「逆よ。蒸留で飛ばしたアルコール……酒の成分を集めるの」
加水して発酵させた事でアルコールの量自体は増えている。それを蒸留して蒸気にしたのを集める。そうする事でアルコールは濃縮されよりアルコールの度数が高くなる。
「ほう、嬢ちゃんも私と同じ化学者かね? 蒸留による精製を知っているとは……しかし、酒から酒気を集める事が出来るとは私も思いもしなかった」
「まあアルコールは目に見えないから、そう思うのも無理ないかも知れないわ。でも、その成分は確かに存在していて、集める事が出来るの」
蒸留器に注いだ葡萄酒を加熱していく。その時発生する蒸気を蒸留器に繋げた管を通して別の容器に送る。水の蒸発する沸点よりもアルコールの蒸発する沸点の方が低いため、先にアルコールが蒸気として流れていく。自然発酵ではアルコール度数が高くなると発酵酵母自体が消毒されてしまう。しかし、蒸留することで自然発酵では出来ない高いアルコール度数まで上げる事ができるのだ。
「これを繰り返して全部精製するわ」
そうして葡萄酒のアルコールが濃縮された液体だけが手に入る。無色透明の蒸留されたアルコール液だ。これを木製のジャグに移して蓋をする。
「これは酒なのか? まるで葡萄酒の酒の部分だけを抽出したようだ」
「まだよ。これだけでは未完成。そしてさらに……」
遠目に見ていたミトソに蒸留して出来た抽出液を差し出す。
「ねえあなたの力で数年くらい熟成させる事って出来る?」
「勿論、酒の神である僕ならそれくらい可能だよ。でもそんなにするの?」
「ええ本来美味しいお酒は長い年月をかけて熟成させた方がいいの。お酒の神様ならそれくらいわかるでしょ?」
ミトソは抽出液の入ったジャグを手に取って目を閉じる。無言で瞑想してるように、酒の神である彼はこうやって酒の発酵や熟成を促す事が出来る。
「何をやっている? 私にはさっぱりだ!」
「時間の経過を早めているの。出来た抽出液を3年ぐらい熟成させる」
「時間の流れは万物平等に一定だ……だが、嬢ちゃんたちは神の申し子らしい。時間を自由に操る事が出来るのだから!」
神の申し子か、それを聞いてるミトソは神そのものだから不服かもしれない。しかし、確かに時間を操るなんてそんな事ができるのは神かそれに近い存在だけだろう。
数分してミトソが目を開けた。どうやら出来たらしい。私はジャグを受け取って、それを容器に注ぐ。
「なんと、透明だった抽出液が飴色に! それにこの濃厚な甘い香り! 再び抽出液が葡萄酒になった!」
「ただのワイン、葡萄酒じゃないわ、これは……」
醸造と蒸留、それから数年の熟成を経て生まれる蒸留酒。元々はその地方の呼び名が付けられていたが、奇しくもアルマはその地方と似た名前をしている。だからそう呼んでもいいだろう。
「王様のお酒、アルマニャックよ」




