48話
「これを浸けて226日! 一口飲めば冬の寒さにも耐えられる滋養強壮の自信作! さらに……」
「分かったから一口貰っていいですか?」
「勿論! 何が帝国法か! 学問の発展には実証が欠かせないのだ!」
そう言いながら、用意した容器に薬草酒を注いでいく。濁った緑色をした薬品の様な匂いの液体だ。酒好きのアルマでも直感的に危険を感じさせた。
「じゃあ、その学問の実証を兼ねて乾杯」
ミトソはその薬草酒を平然と口にする。アブールは期待するようにアルマの方を見ている。そのプレッシャーに耐えきれず、覚悟を決めてグイっとあおった。
「うん、これはこれは……」
僅かにアルコールと木の実の甘味を感じるが、それ以上に青臭さとえぐみが喉を通り抜ける。それから大きく息を吸う。空気が美味しく感じる。
「飲んで31秒後には効果が表れ始める。これを始めて飲んだその晩、私は月明かりの下で平野を駆け回った。それ程元気がみなぎったのだ!」
それは恐らく、駆け回ったのではなくのたうち回っただけではないかとアルマが思い始めた時、薬草酒の効果が現れ始めた。地面が波打ち、まるで荒れた海の上にいるようだ。腕や手足がビクビクと痙攣したように躍動し、その場に座っていることも出来ない。
「凄い効果ですね。私は外を走ってきます」
「飲んだら動き出さずにはいられない、まさに時間の流れの様なお酒だ! 素晴らしいだろう!」
身体の底から湧き上がる謎のエネルギーが、アルマの意志とは無関係に放出される。しばらく外で彼女は奇怪な踊りを舞い続けた。
「使われてる薬草は興奮作用や麻痺させる効能がある物が入っているね。それらが合わさって、彼女も外で動き回ってるみたいだね」
「少年は何ともないのか? 私の薬草酒の効果がないなんて、こんな事は初めてだ」
「お酒にはちょっと強いからね。しかし、この酒は僕の口には合いそうもない。何より味が悪すぎる。植物の青臭さが味を損ねている!」
元神であるミトソにはこの凶悪な薬草酒はお気に召さない代物だったようだ。
「煎じる薬草を変える必要があるかもしれんな。自信作がそのような評価をされては私も黙ってはなれない!」
「それなら、私にも手伝わせて……」
ミトソの厳しい評価に今すぐにでも新たな薬草酒を造ろうと、アブールが立ちあがった所で、外に出ていたアルマが這いずりながら戻ってきた。滋養強壮どころか半生半死という風な体たらくだった。
「アブールさんの薬草酒の造り方を拝見させて欲しいの。酒の造りなら私も少しは手伝えるから、入れる薬草の方を任せたいわ……」
アブールには悪いが、この酒は外に出すには危険すぎるとアルマは判断した。ならば、美味しい薬草酒を造って、彼にもその気に入る様な物を造ってやりたかった。
「ならば共同作業といこう! この少年が気に入る様な特製薬草酒を造ろうではないか!」




