46話 商人ギルドの思惑
ドワーフの国では酷い目にあった。取引を終えて宿に戻る途中、騎士団に捕まった。最初は武具の横流しがバレたのかと思い腹をくくったが、そういう訳ではなかったらしい。彼らの目的は一緒にドワーフ国入りしたあの姉弟のような二人だった。商人ギルドからの情報を見ると、女性の方は酒の密造で処刑から逃亡した重罪人だという。直接見た印象だと、どこにでもいるただの村娘という感じだったが、弟の方がただ者ではないとロンは話をして思った。
結局、あの二人は騎士団に見つからず町を出たようだが、その責任を取って騎士団は西のエルフとの戦争に駆り出されることになった。
帝都にある商人ギルドの本部に戻ったロンは、すぐギルド長に呼び出された。理由はやはり、その二人についてだろう。
「入ります」
商人ギルドの長ガーメット・オゼーゼがふんぞり返って待っていた。大きな執政机からはみ出そうな巨体のこの男は、ギルド本部から一歩も出ずに帝国のあらゆる物流を支配している。皇帝が表の長なら、彼は裏の皇帝のような存在だ。
「文鳥の持っていた情報によると、お前が帝都を混乱させたあの魔女と遭遇していたようだな」
魔女、あのお嬢ちゃん……アルマという名だったか、そう呼ばれているようだ。とある小さな村で密造酒を造って村人を誑かし、捕まえて処刑しようとしたところで帝都に混乱をもたらして逃げ出したという。とてもそんな大それた事のできる人には見えなかった。
「ええ、そうです。しかし、最初はドワーフ国で働いている移民だと名乗っておりました」
「まさかそれを馬鹿正直に信じていたわけではないだろう? この仕事をして商人ギルドと無関係の商人がいるはずないのだから」
ガーメットの言う通り、戦場に武器を輸送する商隊から個人で売り買いする行商人まで彼の許可なしでは帝国で商売は出来ない。その証として、必ずギルドの証印が彫られた首飾りを持ってなければならない。まさに彼の飼い犬の証として。でも彼女も弟の方もそれを身に着けていなかった。だから商人であることはあり得なかった。
「率直に聞くが、魔女の容姿はどんな感じだ? 一目見て分かる特徴があったか?」
「何故そんな事を?」
「聞いてるのは私の方だ。騎士団がわざわざ追って危険を冒してまでドワーフ国まで来ていた。その理由だけ知っていれば十分だろう?」
帝国がリスクを冒してまで追いかける存在だという事は、それだけの価値があると睨んでいるのだろう。だから、ガーメットは商人ギルド全体で帝国よりも先に魔女を見つけ、利用したいに違いない。
「分かりました。魔女は名前をアルマと言いました。歳は……」
だが、ロンは言わなかった。恐らく彼女は魔女と呼ばれるような存在ではない事を。それよりも弟、少年の方が特別なのだろうと。直接彼らに会ったロンだからこそ知りえた貴重な情報を安々と教えるわけにはいかなかった。取引には相応の価値を得なければ商人としてやっていけない。それだけの事だ。




