45話
村の老人が教えてくれた薬草医の家はすぐ見つかった。遠くからでも見える色とりどりの花壇に囲まれた粗末な小屋。この世界で効能のある薬草や花を栽培しているのだろう。
「どうしてわざわざ会いに行くの?」
「もう、お姉さん察しが悪いんじゃない? お酒も薬の一種だよ。こういう誰も来ない辺鄙な所で生きているんだから、こっそりお酒の密造してる可能性が高いんだ」
「変人だって聞いたけど、大丈夫かしら?」
「まあ、悪人ではないからいきなり襲ってくるようなことはないんじゃない? 村の人とも普通に会話や交流はあるみたいだし」
小屋に近づくと、様々な植物の匂いが漂ってきた。いい香りの花やハーブにも詳しいのかも知れない。アルマは自分が酒の匂いがすると言われたことを思い出す。お酒よりもこういう花の香りがする方がいい。香料を分けて貰えないかと考えた。
扉をノックするが反応はない。留守かと思っていると、ミトソは勝手に扉を開けた。薄暗い小屋の中に一人の男性がいた。粗末な椅子に座って背中を丸めている。眠っているのだろうか
「なんだいるじゃん。もしもし薬草医さん」
「あー!」
ミトソが声をかけた瞬間、突然薬草医は叫びながら立ちあがった。するとこちらを振り返りミトソ達を睨みつける。
薬草医は医者というより仙人のような恰好をしていた。伸び放題の毛と髭に埋もれた顔、そしてなぜか服の上から全身に花や葉を括り付けていて身体から植物が生えてるかのように見える。
「誰だ仕事の邪魔をするのは! 薬の配合は繊細さが要求されるんだぞ! お陰で台無しだ! 丹念に育てた薬草が無駄になった! 95日もの月日が一瞬にして水の泡だ!」
早口で二人にまくしたてる。薬を作っていた最中だったらしい。
「す、すいませんお仕事中に……」
「謝って時間が戻るならいい! しかし時間は戻ることなどない! 今もこうして時間は無情にも進んで行く! 誰もが死に向かっているんだ!」
すると急に薬草医は動きが止まった。まるで時が止まったかのように無表情で数秒。
「では突然の来訪者へ対応する時間にしよう。怒る時間も無駄な時間だ。ようこそ客人、歓迎しよう」
怒りが収まったのか人が変わったようにアルマたちに対応する。なるほど、変人と言われる理由が分かった。
「今お茶を淹れよう。私が育てたハーブティーだ。32日で育つから遠慮しないでくれ。それを10日乾燥させた物を煎じて5分も経てば充分効能が出る」
テキパキといくつもある棚から乾燥させた薬草を取り出して、二人があっけにとられてる間にお茶を煮出し始めた。
「村人以外の来客は141…いや153日ぶりだったかな? 初めまして私はアブールという名前だ。この辺りで医者のような生業をして生活している」
ハーブティーを煮出してる間に、二人はアブールに挨拶をした。




