44話
アルマたちは西方のエルフの国を目指して旅を続けていた。途中、手に入れた葡萄はまだ醸造せずにそのまま残してある。
「葡萄酒を造るのに必要なのはちょうどいい温度で静かな環境! 少しひんやりする様な地下貯蔵庫があればベストなんだけど、帝国は結構気温が高い上に、季節での寒暖差が激しいからなかなかそういう場所は少ない」
「だから、私のかつていた修道院も余り美味しいワインが出来なかったのね」
しかし場所はともかく発酵させるだけならミトソの神の力だけで十分じゃないのかとアルマは思った。すると、ミトソはやれやれと言うような表情をする。
「そんな能力に頼って楽な方を選ぶのは良くないよ。自分の手でちゃんと造れるのが大事なんだ」
こんな時ばかり真面目な事を言われると何か屈辱だ。そういう訳で手に入れた葡萄は未だ馬車に積まれている。ミトソ曰く葡萄酒造りに適した場所を見つけるまで我慢との事。能力で葡萄酒を造るのは葡萄が腐るギリギリまで使わないつもりらしい。
「まだ日は出てるけど今日はここで宿を取ろうか」
小さな村に着くとミトソは宿屋を探して一泊することにした。まだこの辺りでは帝都で起きた魔女の話も届いてないみたいで、安心して外を出歩ける。
「ここは帝都からも遠くて目新しい物もない土地だから、退屈な場所だよ」
むしろ他の土地の話が聞きたい村人ばかりだと、宿屋の亭主は言っていた。時折来る行商人や旅人から聞けるゴシップにみんな飢えてるらしい。
「いいね。怪しまれず色んな話を聞くのに都合がいい」
「でも、宿屋の人も何もないって言ってたわよ?」
「そういう場所でも一つくらいは面白い話を聞けるものだよ。僕たちはドワーフ国にも行ってきて、そういう情報には事欠かないから、情報交換にはもってこいだ」
本当に大丈夫かしらとアルマは不安になった。だが、ミトソの言う通り、本当に気になる情報が手に入った。村の中でもお年を召している老人に、この辺について話を聞いたときの事だ。
「この辺は辺鄙で面白い物はないねえ……しいて言えば村からちょっと離れた森に薬草医がいるくらいだよ」
薬草医! そこの森で薬草を栽培しながら一人で暮らしているらしい。村で怪我や病を患った人は彼に頼むとすぐに治してくれる腕のいい医者とのことだ。
「傷に効く軟膏や虫よけの香料なんかを商人と交換したりもしてる。ここいらで一番有名なんじゃないかな」
「ふーん、ちょっと気になるね。僕たちも会いに行ってみようか」
ミトソは得意げな顔を見せた。
「まあ、ちょっと変わり者だけど、悪い人ではないから気にしないでやってくれ」
「ありがとございます」
お礼にミトソは葡萄を老人に渡したが、それは盗んだ物であることをアルマは黙っていた。




