42話
「大体ね、帝国は普通の葡萄酒造りすら満足にできない連中ばかりなんだ。せっかくの葡萄を無駄にしている!」
ミトソが怒るのも無理はない。こんな上等なワインが造れる可能性があるのに、発酵のさせ方も未熟で酢の様な物しか造れない。実際に飲んだことがあるからアルマもそれは実感している。
「大体貯蔵の仕方が悪いんだ。葡萄酒を上手に発酵させるのには適切な温度管理が……」
ミトソがご高説を述べている最中に、遠くから人の声が聞こえた。葡萄畑の向こうから人がこちらに向かってきている。
「まずいわ、畑泥棒かと思われちゃってるかも」
「早く逃げないと」
「でも、私たちが取ったのは腐った葡萄だけって説明すれば……」
馬車の荷台には取れたての新鮮な葡萄が籠に一杯詰められている。いつの間にか分からないがミトソは大量の葡萄を盗んでいた。
「やっぱり普通の葡萄まで取ってるじゃない!」
「酸っぱい葡萄酒にされるより、美味しい葡萄酒にしてやった方が葡萄たちも嬉しいでしょう? 逃げるよお姉さん!」
ミトソがすぐに馬車を走らせる。幸いまだ距離があったため逃げる事が出来たが完全に畑泥棒だ。
「ああもう、また一つ罪が増えたわ……」
人は生きてる内に一体どれほどの過ちを繰り返すのだろか。既に処刑が決まってるこの身にさらに罪が重なっていく。
「それもまた人生さ。どこかゆっくりできる場所が見つかったら、この葡萄で美味しい葡萄酒を造ろうよ」
誰のせいでこうなったのか問い詰めたいが、ワインに免じて黙っていることにした。しかし、ワインにしても他の酒にしてもまずは腰を据えて落ち着ける場所が必要だ。根無し草の今では酒を醸造してる暇なんてない。ミトソの力ならすぐに発酵させる事はできるが、貯蔵はどうすればいいのだろう。
「もうすぐ町が見えてくるはず。そこの近くに知り合いがいるんだ。そいつの所でならお酒の醸造もゆっくりできるはずだよ」
ミトソの知り合い……ドワーフのガブの様な人がいるのだろうか。きっとその人も酒飲みだろうから仲良くしたい。
「そういえば気になったんだけど……」
ふと思い出したことがある。初めてミトソと会った時、どこからともなく麦やホップを集めてきていた。その出所についてだ。
「もしかして、あれらもどっかの畑から盗んできてたんじゃないの?」
「美味しいお酒を造るには、それに見合った材料が必要になる。酒の神に認められた作物を作れているんだから、それを捧げるのは名誉なことだよね」
やはりあれらもどこからか盗んできていた物のようだ。なんて手癖の悪い神なのだろうとアルマは思った。




