40話
山岳地域のドワーフ国に比べて、帝国は平野が多い。温暖な気候も相まって農耕に適した土地も多く、安定した農作物の生産は帝国の繁栄をを支える重要な基盤となっている。取れた作物は土地を管理する領主の下に集められ、そこからさらに商人ギルドが帝都へと運んで行く。
「それで、街道を進んでるだけで、商人たちに出会うのね」
商人たちは騎士の護衛を連れているため、彼らを見つけた時はアルマはすぐに馬車の荷台に隠れる。帝国では魔女と言われ、処刑されかけた身だ。自分の顔を知っている騎士に会ってしまったら再び火あぶりの刑に処されるだろう。
「西と南で戦争が起きてるのに、商人ギルドの護衛に当てられるくらい騎士も多いんだ。流石いろんな国を併合して出来ただけあって、人も多いよ」
「お陰で私は迂闊に外にも出れないわ」
幌の中でアルマが恨めしそうに言う。
「我慢我慢。生きてればそういう事もあるさ」
「誰のせいよ!」
そんな風に言い争っていると、葡萄畑が見つかった。この辺は武道を育ててるようだ。
「教会や修道院があるのかしら? 今ではあそこの暮らしが懐かしいわ」
「丁度いいや! そろそろ麦酒ばかりじゃ飽きて来たから葡萄酒でも飲もうかな」
ミトソはそう言うと、馬車をその場に停めてあろうことか畑の葡萄を勝手に取り始めた。
「ちょ、ちょっと何やってるの!」
ミトソがやっているのは明らかに畑泥棒だ。いくら元神とはいえ目の前で平然と犯罪行為が行われてるのは見過ごせなかった。
「そんなのただの窃盗じゃない!」
「勘違いしないでよ。ほら、僕が取ってきたのはこういう奴さ」
そう言ってミトソが見せて来たのは実が萎びてカビが生えた葡萄だ。
「こういう腐ったのは捨てちゃうでしょ? そんなことするくらいなら貰っても文句はないはずだよ」
「ううむ、確かに……」
修道院でも栽培した葡萄を収穫する時、萎びた物は使えないと放棄されていた。ワインを醸造する時に使うのは瑞々しく、ちゃんと実が育ったものだけだった。
「そこが人間の愚かな所だよ。ちょっと見てて」
ミトソはいくつか腐った葡萄を集めて、馬車にある醸造用の濾し器を取り出すと、葡萄を押し当てて果汁を搾り始める。
「いくら腐った奴だけ取っても、見られたら畑泥棒扱いされちゃうんじゃないかしら」
きょろきょろと不安そうにアルマは周囲を見渡すが幸い辺りには人影もなく、ミトソ達がやっているのを咎める者はいなかった。
「もうちょっといるかな。ちょっと待ってて」
呑気にそう言ってミトソは畑から腐った葡萄を取って来てはその果汁を搾り集めた。




