39話
「じゃあ、この辺でお別れだな。元気でな二人とも」
アルマたちは再び帝国領に入ってから、ドワーフの商隊と別れた。ガブが気を利かせて自分たちの馬車には日用品、食料、そして醸造器具が一通り揃っている。
「ああ、追手からも逃げ切れたし今が一番平穏だわ」
流浪の身であることと自身が罪人として指名手配されていることを除けば、修道院を追放されてから久しぶりに落ち着ける状態になった。まだ追放されてから一か月ほどしか経ってないはずだが、ミトソに会って酒の密造に手を出し、それが原因で魔女と弾劾され処刑されかけた。そこからも逃げ出して帝国騎士団に追われながらドワーフの国に行って、彼らに美味しい麦酒の造り方を伝授してまた帝国の領地へと戻ってきた。なんて怒涛の日々だったろうか。
「じゃあ、出発しようか。旅の宿屋でも探しながら、西のエルフの国を目指すよ」
アルマが追われる身になった元凶でもあるミトソが、さも当然の様に馬車を出発させる。本当にエルフの国に行くつもりなのだろうか。
「ねえ、私としてはひっそりと植物の様に静かに暮らせる場所が欲しいのだけど駄目……?」
「何言ってんのさ。お姉さんは僕の信仰者なんだから、その手伝いをしてもらわないと。一緒に道すがら美味しい酒を造りながらのんびり行こうよ」
いつの間にか酒の神、いや元神の信者にされてしまった。彼女が信仰してるのは酒の神ではなく酒その物だというのに……しかし、かといってミトソから離れて一人で生きていく手段がない。悲しい現実に打ちひしがれる。
「ああ、安寧で平穏に生きていきたい……」
アルマは落ち込みながら馬車の荷台で一人ごちる。売られる子牛のように悲しそうな瞳で遠くを見る。外は平穏そのもの。それでも、帝国は西と南で戦争をしている話をドワーフの国で聞いた。同じ空の下では戦争が起きていると考えると、これでも恵まれてる方なのかもしれない。
「ところで、西方のエルフの国とは戦争しているんでしょ? それなのに行って大丈夫なの?」
「戦争しているのは帝国の人間たちだろ? 僕は無関係だし大丈夫なんじゃない?」
どうしてこの元神はこういう所で無計画なのか。いや元神だからこうなのだろうか? 国の情勢や人の都合には全く無頓着。これでは先が思いやられる。
「ああ、もう真昼間だけど酒に溺れてこの憂鬱を忘れたい……」
酒は涙かため息か。そうした現実のつらい時、こうやって前世でも酒で現実逃避していた事を思い出す。
「そうだねえ、せっかく帝国に戻ってきたし、何かお酒飲みたいな!」
ミトソはあくまでマイペースで、アルマの悲しみなんか全く考えていない。そんな二人だが、無類の酒好きという共通点だけで繋がっていた。




