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38話 帝国の思惑2

「まったくあの時は酷い目にあった。まだあの騒ぎを起こした張本人は捕まらんのか?」

 帝都の貴族屋敷でジャバー・シャット―が不機嫌に呟く。いつものブランドハウス間で行われる個人的な集まりが始まっていた。

「帝都中が酩酊したあれか。私も前日の酒が残っていたから立つ事も出来なかった。騎士団が追っているが、相手は魔女なのだろう?」

 屋敷の持ち主ボン・ブランディスはミィジー・グレーンに尋ねた。

「騎士団の情報によると、昔あの地域で信仰されていた異教の廃墟に住んでいたらしいわ。それで近くの村の人々を誑かして何らかの儀式を行おうとしたとか……かつて帝国が滅ぼした国の中には超常的な力を使う者がいたと記録にあるわ。帝都で起きた騒動、あんな事を出来る事から異教の魔女の生き残りの可能性が高いわ」

 帝都中の人間が酩酊したあの騒動は帝国側からは、完全にアルマの所業と認知されていた。

「デュオンの奴、騎士団の殆どを連れて行った。私としては西方のエルフとの戦争に専念して欲しい所だが、あいつは頭が固い。帝国の規律を正す事ばかり考えている」

「帝国の政治は我々の仕事なのに、あいつはすぐ口を出す。やれ教会や修道院の醸造免許を厳しくするべきだとか、酒造用の作物を減らして穀物にかえろだとか、越権行為も甚だしい」

 帝国の貴族たちの間でも、デュオンを煙たがる者は多かった。一方で、商人ギルドや反乱分子の監視や取り締まりで実績もあるので無下にするのも出来ない。そこが悩ましい所だった。

「醸造免許で思い出したが、今回はいい葡萄酒が見つかったのだ。早速執事に持ってこさせよう」

 手を叩いてブランディスが執事を呼び出し、葡萄酒を持ってこさせた。帝国法では貴族階級しか酒を飲むことは許されていない。

「酸っぱい奴は酔いの回りも悪い。本当にいい物なのか?」

「すぐ近くの修道院の物だが、これがとてもよくできている。甘く美味しい。デュオンが聞いたら飲酒を怪しんで納入を取りやめにするかもしれんぐらいだ」

 葡萄酒を飲んでいる時にデュオンが報告に来ると、いつもこちらを軽蔑するような表情をする。彼の酒に対する嫌悪感はブランディスでさえ感じる程だった。

「ふむ、これは甘い! 私はかなり気に入ったぞ」

「確かに、こんな上手く醸造できるという事は、味を見ながら造っていてもおかしくないわ」

 シャット―とグレーンも思わず飲むのが進む。それ程美味い葡萄酒だったからだ。

「帝国法を守って酸っぱい葡萄酒を飲むくらいなら、見過ごしてでも美味い葡萄酒を飲める方がずっといい!」

 シャット―が嬉しそうに声を上げる。

帝国法はそろそろ見直す必要があるかもしれない。百年近く変える事が出来なかったのは、帝国がその法と規律によってまとまっているからだ。法の改変はブランドハウス間でもその是非が分かれている。

「葡萄酒の良し悪しを決める自由が帝国の命運を左右するかもしれないとはな」

 強大そうに見えて、その実いまだ不安定な帝国の真実にブランディスが皮肉気味に呟いた。

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