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36話

「レシピってほどじゃないけど、黒麦酒の造り方をメモしておくわね。ガブさんもこれで醸造してみて」

「ありがとう嬢ちゃん。世話になっちまったな。でもこれはきっと町で流行る。他じゃあ飲めないガブ特製の黒麦酒として!」

 ミトソの試飲が終わってその結果と、ガブの笑顔を見てアルマは満足した。美味いお酒は皆を笑顔にする。それは飲む人だけでなく造る人間もそうあって欲しいという彼女の目的が叶った証だ。

「さて本題に入らせてもらうよ。既に町の中に帝国の追手が来ている。ドワーフの町に普通の人間がいるなんてそうそうないから、このままだとすぐに居場所がバレる。一刻も早く町を出る必要がある」

 しかし、町を出るにしても行先は? それにどうやって気づかれずに? それが問題だった。

「ロイさんに力を貸してもらうのは? あの人まだこの町に居るんでしょ」

「それは無理。大体アルマも怪しいって言ってただろう?」

「それはそうだけど……」

 ミトソは知っているがロイは商人ギルドの一員だ。そう何度も借りを作るのは得策ではないと彼は思っている。敵ではないがこちらの味方でもない。わざわざ無理をしてこちらの手伝いをしてくれる保証はない。

「だったら、丁度いい方法がある!」

 ガブが声を上げた。

「今日の夜、帝国行きの商隊が出る。ミトソも知っている元々ここの同僚だった奴がいるんだ。そいつに頼んで商隊の荷物に紛れて町を出ればいい!」

「しかし、帝国に戻る事になる。それに輸送は護衛の帝国騎士団が付くんじゃないか?」

「それは帝国に引き渡してからだ。検問もそんなに厳しくないし、抜けたら途中で分かれればいい」

 それなら町を出る分には問題ないだろう。問題はそこからどうするか、再び帝国に戻るのは……。ミトソが考えているとアルマが口を開いた。

「帝国に戻りましょう。追手もまさかこちらが自分から戻ってくるとは思ってないんじゃないかしら」

「確かにそれも一理あるな。どうせならそのままエルフの国でも目指そうかな。あそこは酒になりそうな果物がたくさんあるし」

 こんな時でも酒の事を考えているミトソに、ガブとアルマは思わず笑ってしまった。

「ははは! 小難しいこと考えているより、ミトソも酒の事を考えている方がずっといい! そうと決まれば、すぐに頼んできてやるぜ!」

「ガブさんありがとう……!」

「これは俺からの恩返しだよ嬢ちゃん。あんたの熱心な酒造りを見ていたら、こっちもまたやる気が出て来た。黒麦酒でノックノックが繁盛したら是非一度また来てくれ!」

 ガブは商隊へ連絡を取りに行った。この寂れた宿屋がドワーフたちで溢れ返るのが楽しみだ。そんな未来をアルマは想像した。

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