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35話

 ミトソが状況を伝える前に、アルマは大急ぎでミトソを地下へと連れて行った。そして、造った麦酒の詰まった樽を差し出す。

「さあ、まずはミトソの力で発酵させて! そうすれば望みの美味しい麦酒が飲めるんだから!」

「やれやれ、そんな事よりもう帝国の追手が……」

「いいから早く!」

 あまりの勢いに気圧されて仕方なく発酵させる。これまでと違いかなり自信があるようだ。

「さっき追手の騎士団の連中を見つけた。気づかれないように町を出る必要があるから酒造りはもうお終い。分かった?」

「これは自信作! 飲めばわかるはずよ!」

 アルマは話を聞いていない程興奮している。さっさと飲んで町から出る事に取り掛かりたかった。発酵が終わると、彼女は早速一杯注いでミトソの前に差し出した。

「へえ、これは……」

 完成した麦酒はいつもの透明感のある黄金色ではなく、まるで煤の様に真っ黒な液体だった。そして香りも僅かに植物の焦げた匂いを感じる。

「ドワーフ特製黒ビール! これならきっと満足できるわ!」

 ミトソも存在そのものは知っていたが、素人のアルマがこれを作った事に驚いた。確かに黒麦酒ならドワーフたちの住む環境でも飲みやすいかもしれない。

「本当に大丈夫なのか嬢ちゃん。炭鉱の泥水みたいに真っ黒だぞ?」

「だからこそよ。あれほど真っ黒なら煤が浮いても気にならないでしょ?」

 黒ビールは材料の麦を焙煎して造る。アルマはどれくらい火を通せばいいか分からず悩みながら煎っていたが、考えている内に麦が真っ黒になって結果的に濃い黒ビールになった。

「ま、過程はどうあれ問題は味だよ。言っておくけどこれがどうあれ、最後の醸造だからね」

「ガブさん私たちも飲みましょう」

「俺には嬢ちゃんを信じるしかねえが、本当に飲めるのかぁ……?」

 アルマとガブもジョッキに注いで飲む準備を整える。

「それでは試飲。乾杯!」

 アルマが音頭を取って3人は真っ黒な麦酒を飲み始めた。普通の麦酒とは違う強い苦みとコク。余計な雑味を黒麦酒の苦みで打ち消して、深いコクは肉体労働で疲れた工夫たちも病みつきになるだろう。

「これは驚きだ。苦いけれどその中に甘味を感じた。なんて不思議な麦酒だ!」

 ガブも驚きの声を上げる。そしてミトソの方は……?

「うん、これならドワーフたちの使う材料でも気にせず飲めるんじゃない? もう一杯貰おうかな」

「やったわ!」

 酒にうるさいミトソが自分からおかわりを頼んだ。これは言うなれば合格の意味だろう。ドワーフたちの炭鉱町に似合う煤の如き真っ黒な黒ビールが、酒の神を唸らせた。

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