34話
「彼らのためだよ。勿論お金も大事だけどね」
「ふん、僕からすれば帝国の狂信者どもとそう変わらない。信仰しているのが神かお金かの違いだけだ」
もっとも、酒の神であるミトソからしたら酒以外は興味のないものだ。帝国や商人ギルドの目的はどうでもいい。ただ、自分にとってその存在が邪魔になるかならないか、問題はそれだけだ。
「聞きたいことはそれだけかい?」
「ああ、それでわかっているだろうが、僕たちは騎士団にも目を付けられているお尋ね者だ。ヘマこいて捕まっても僕らのせいにするなよ」
「ご忠告ありがとう。それで、最後に聞くけど帝都で起きたことは彼女の仕業なの?」
「いや、僕だ。だから商人ギルドの上の連中にも言っておけ。彼女はただの人間で、お前らの言う金になる様な事は何も出来んとな」
それだけ言うと目的を果たしたのでミトソは立ち上がり、宿屋を去ることにした。これで目的は果たした。アルマに余計な人間がまとわりつくのは防ぎたかった。彼女は自分にとって唯一の信者だ。神として信仰する者を守るのは当然だ。それだけ、本当にそれだけのつもりで彼女が処刑されそうになった時も助けてやったし、今回も商人ギルドに釘を刺しただけに過ぎない。
本来ならわざわざこんな事はしないはずだが、彼女が心の底から酒が好きなのを見て、見過ごす事が出来なかった。
「む?」
知っている気配を感じて咄嗟に物陰に隠れた。気配のした方を覗き込むと、デュオンとその部下の騎士たち3人がいるのが見えた。もう追ってきたか。装いから旅人のフリをしているが、一度見た顔を見違えるようなことはしない。
「もう少し時間がかかると思ったが、動きの速い奴らだ。急いでこの町を出なければな」
まだ気づかれてない事を確認してから、遠回りをしてノックノックへと戻ってきた。アルマには悪いが、これ以上時間を浪費している暇はない。店は表向き閉まっているが、中では麦酒の密造で四苦八苦しているだろう。いくら酒好きとはいえ、そんな上手く酒を造れるとは限らない。猶予までまだ時間はあるが、帝国騎士たちが来ているなら話は別だ。
ミトソが帰ってきた事にアルマが気が付いたようで、地下から駆け上ってくる。
「ただいま。約束だけど、事情が変わったからもう酒造りは終わりに……」
「出来たわ」
「え?」
アルマの表情を見ると、今までにないくらい自信に溢れた表情をしている。これまで造った麦酒を持ってきた時と全く別物だ。
「ドワーフたちが美味しく飲める麦酒、ついに完成したわ! 早速ミトソに試飲してもらうから!」




