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32話

「うむむ……」

 アルマは悩んでいた。思い切って啖呵を切ったはいいものの、肝心の美味い酒造りは難航していた。そもそも彼女は前世からただの酒好きの一般人で、醸造家などではないただの素人だ。この世界に転生してからもワイン造りやミトソの手伝いなどばかりで、本格的な造り方は全く知らない。

「こんな時に何か隠された力とか、チート能力が実はあったりしないかしら」

「いや嬢ちゃん、無理しなくていいよ。あんたの頑張りは分かったから……」

 辛うじてガブから手ほどきを受けたが、それでも最初の三日はミトソに飲む価値すらないと一蹴された。そのせいですっかり落ち込んでしまい、現実逃避する言葉しか出ない。

「元神だからって酒にうるさいなんておこがましいのよ~……お酒なんて飲めればそれでいいじゃないの~」

 しかし、最初にミトソが言っていた様に、素材からして美味しい麦酒が出来るのは難しいのは真実だった。ドワーフたちの使っている麦は挽いて小麦粉に変えても帝国のそれよりぱさぱさとしていて質が悪い。水も地下水を汲んでいるらしいが、鉱山がすぐ近くにあるせいか変な苦みがしてあまり飲みたくない代物だった。

「俺たちドワーフは金属や宝石には目がないけれど、食事や他の事は二の次になっちまうんだ」

 ガブもそう言っていた。だから鍛冶技術には優れた者が多いが、料理や醸造する者は少ないという。

「だから、俺みたいな鉱山仕事してない奴は下に見られる。味も二の次で腹を満たせる物が作れればそれでいいってな」

 そんな文化じゃ美味しいお酒を造るのは難しいだろう。ミトソが一度諦めたのも分かる気がした。

「それならなおの事、美味い物が作れるって証明しないと。これはもうドワーフ文化への挑戦よ!」

 アルマはそう言って、一度消えてしまったやる気に再び火を付ける。麦や水が駄目なら、他の物に手を加えればいいはずだと思った。

「私たちが持ってきたホップ、これで麦酒の味を変えていけるはず」

 昔のビールはホップや野草で保存性を高めたり味に深みを与えていたという。無論、ただホップを醸造中に加えるだけじゃ、帝国で作っていた物の二番煎じになってしまう。だから、加えるホップその物を変えていく。

「これでミトソをぎゃふんと言わせるんだから! そういえば、ミトソはどこ行ったのかしら?」

「ああ、さっき用事があると言って出て行ったよ。それより嬢ちゃん、そいつをどうするんだ?」

 まったく気が付くとふらっといなくなる元神だとアルマは思った。それよりも今はホップにある工夫をする方が重要だ。

「ちょっと調理場を貸してもらうわ。ガブさんは麦酒の準備を進めてて」

 アルマはある可能性を見だしていた。ただ、それが上手くいくかは実際にやってみなければ分からない。急いで地下から出て調理場へと向かった。

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