30 デュオンの思惑1
帝国騎士団長デュオン・サングイネは元は貧しい農民の息子だった。物心ついたときには父と妹、3人で暮らしていて母親はいなかった。その原因は父親にあった。家族には威張り散らし、デュオンたちが歯向かうとすぐに手を上げた。その癖、外では他人の顔色を窺い、へらへらとしている言わばろくでなしの人間だった。
その父親だが、どこで覚えたのか酒の醸造方法を知っており、租税の収穫物から小麦をちょろまかしては家で麦酒を密造して飲んでいた。そして酔うと、またデュオンたちに暴力をふるった。その過去から、デュオンにとって酒はろくでなしの飲む最低な物だと刷り込まれていた。
そして、父親が妹にも容赦なく暴力をふるったある日、デュオンは父の酒の密造している事を領主に密告した。すぐに父親は捕まりそれから姿は見ていない。孤児になった後は孤児院で過ごしたが、父親がいた頃とは比べ物にならない程幸せな生活だった。
孤児院で騎士になるべく勤勉的にデュオンは過ごし、15歳になると兵士として南の蛮人と戦った。そこでの功績からサングイネという騎士の養子として引き取られ、ついにデュオンは念願の騎士となった。妹はその時代に信頼できる同僚へ紹介し、今も夫婦として幸せに暮らしている。
騎士となった後は西のエルフとも戦う様になり、戦地に赴けば仲間から頼りにされた。やがて帝都の貴族たちの耳にもその実力を聞かれ、ついに帝国騎士団長とまで上り詰めた。そこでデュオンは戦場に出るだけが戦いだけでない事を知った。帝国の政治を担う貴族たちの対立、独自に力を溜めつつある商人ギルドの存在と、政治的な駆け引きの存在を知った。己だけではなく、社会その物を強固にしなければ生き残ることはできないと考えるようになった。帝国法という秩序による統治。それこそが帝国を強くし、生きていくために必要だと。
強い兵士と規律によって外部を守り、内部は財政を整える必要があった。厳格な租税徴収、帝国法に反する酒など違法品の密造業者の取り締まり、物資の輸送や流れを徹底的に管理した。
下々の人間は飢えなければそれでいい。だが、父親の様な悪心を持つ人間は常に存在していた。そんな悪人が他者から搾取し、私腹を肥やし周りを不幸にする。それは貴族や領主、商人ギルドも同じだった。敵は外だけではない。内部から己を中心に周囲を腐らせるような味方も決して見逃してはいけない。
「それで、お前はみすみすその連中を通したのか?」
北の同盟国との国境にある検問所で、デュオンは一人の門番を問い詰めていた。
「帝都でそんな事があったなんて我々はまだ知らなかったもので、ただの商人の家族だと……」
言い訳をする門番の顔を殴り飛ばした。既に魔女は国境を越えて同盟国に逃げてしまったらしい。それでは騎士団がそのまま追うわけにはいかなかった。味方の国に軍隊が勝手にうろつくわけにはいかない。相応の理由を帝国と同盟国に知らせなければならない。しかし、そんなことをしてる間にきっと魔女は行方を晦ませてしまう。デュオンは考えた。




