3話
その彼女の思いが異世界に転生しても、酒を求めてきたのだと彼女は理解した。
「それなのに……ここの葡萄酒はもっと、ちゃんとアルコール発酵している物はないの?」
アルマは手当たり次第に樽を開けてはその出来具合を確かめた。葡萄酒、それも赤ワインは濃厚な渋みとアルコールを感じられる風味が美味しさの秘訣だ。しかしどれも酢の様な酸味が強く残っている物ばかりだった。それでも、発酵して生じたアルコール成分は徐々に彼女の体に溜まり始めている。
「これまで省みられなかったのが不思議だわ。修道院としての沽券にかかわる……ちゃんとした葡萄酒を造らなければならないわ!」
せっかく作るならより良い物へという純粋な思いと久しぶりに酒を口にした勢いで、ぐびぐびと保管されている葡萄酒を次々に試飲していく。強い酸味の中から葡萄酒としての渋みを感じようと飲んでいくにつれ、彼女は夜通し葡萄酒を飲み比べていた。
気づいたらすっかりアルコールが身体に回って眠っていたようだ。アルマは眠い目をこすると、自分の前に修道院中の修道女が集まって重苦しい表情で彼女を見ていることに気が付いた。
「アルマ、貴方一体何という事をしてくれたの……!」
院長が怒りを必死に抑えた震えた声でアルマに問いかける。それもそのはずだ、修道女が飲むことを禁じられた葡萄酒をいくつか飲み干してしまったのだ。それも領主に渡さなければならない物を。
「これは重罪よアルマ! こんなことをしてしまった以上死罪は……!」
「お待ちください院長!」
中年の修道女が一人声を上げた。アルマが飲んだ酒の量はあまりにも多すぎた。これではアルマだけの責任ではなく修道院自体にも責が及ぶ。その旨を修道女は院長に伝えた。
「まだ葡萄酒を納品する期日まで時間はあります。それまでに準備すれば、まだ領主にはこの事がばれる事はないでしょう」
しかし、そうなるとアルマの犯した罪はどうするか。院長と修道女はその事について相談し合い、どうするかを決めた。
「アルマ、あなたが犯した罪は大変重いものです。よってこの修道院から貴方を追放します。直ちにこの修道院から出ていきなさい!」
こうしてアルマは罪を逃れる代わりに修道院から追放され、ほぼ無一文で外の世界に追い出されることになった。修道院の権威を守るために。
「二度とこの修道院には近づかないで! さあ早く何処へとでも行きなさい!」
弁明する余地もなく、粛々と彼女の追放は行われた。しかし、自分がやらかした事の重大さは分かっていた。自分の罪が領主に知られれば己の処刑は免れない。それだけではなく、そんな自分に葡萄酒の管理を任せた修道院にも責任がある。そうすると修道院そのものが取り潰される可能性がある。そうなれば多くの修道女が路頭に迷うことになる。苦渋の決断として、アルマを追放し事件そのものを無かった事にすれば、修道院は残る事が出来る。それが院長たちの判断だった。




