28話
町の端にそのカナリアの看板が見つかった。煤だらけでカラスの様に真っ黒になったカナリアの看板には確かにノックノックと書かれていた。中に入ると、店内は閑散として客は一人もいなかった。
「こんな時間に客か? 暇な奴もいたもんだ」
とても客にかける言葉ではないが、店の亭主らしき人物が出て来た。彼もドワーフだが、外で見かけた人々よりも髭に白髪が混じっているので、結構年を召しているのだろう。
「やあ、僕をおぼえているかガブ。あの時はまだただの店番だったけど、今でも変わってないのかな」
ガブと呼ばれたドワーフは数秒間をおいてから思い出したようにミトソを見た。
「こりゃ驚いた……もしかしてミトソか! 言っていた通り本当に変わってないな! 酒の神ってのは本当だったか!」
彼がミトソの知り合いのドワーフのようだ。
「それで、昔の亭主はまだいるの? 僕がいた時より店もあんたもだいぶくたびれてるけど」
「数年前に亡くなって今は俺が引き継いでる。お前さんはこんなベッピンさんを連れて何の用だ?」
「彼女は僕の……信者かな? 司祭の方がいい?」
いつの間にかアルマはミトソの信仰者にされていた。確かに酒をこなよく愛しているが、酒の神を信奉してるわけではないのだが……話がややこしくなりそうなのでそう言う事にしておいた。
「そりゃあまた奇特な人間がいたもんだ。それで、昔話がしたくて来たわけじゃあるまい。それでも構わないが、いずれにしろお前さんには酒がいるだろう」
「流石よくわかっているねガブ! まずは麦酒を飲もう! 話はそれからいくらでも聞かせてあげるから」
ガブは店の扉を閉め切ると、奥の戸棚を横にずらした。その裏には下りる隠し階段があった。
「こっちで話そう。どうせこの時間は誰も来やしない」
そう言って地下へ下りていくガブの後に続いてミトソとアルマも下りていく。地下室は暗くかび臭かった。ガブが明かりをつけると、部屋の中がうっすら照らされ、醸造道具が姿を現した。しかし、どれも最近使ってないのか、埃をかぶっている。
「ほら飲みな。こんなションベンみたいな麦酒でも、熟成させてれば少しはマシだろうからな」
樽に保管されていた麦酒を、ガブは金属製のコップに注いでくれた。帝都を出てから数日ぶりのお酒である。実際にはそれほど日数はかかってないはずなのに、アルマにとっては数年ぶりのお酒に感じた。それくらい待ち焦がれていたお酒である。
「それじゃあ、久々の再会を祝って乾杯!」




