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2話

「期日通りにちゃんと葡萄酒が出来ているか、その任をしっかり守るのよアルマ」

 院長は真剣な表情でわたしを見ていた。葡萄酒造りを許されていることは、この修道院にとって名誉でもあった。そしてその管理という役目は、とても責任のある大役だったのだ。

「勿論でございます院長。この名誉ある役目を、わたくしは誇りに思います」

 わたしは恭しく頭を下げた。修道院にいる時、どうしても葡萄酒造りの役目を引き受けたかったので、手伝いをするときは人一倍努力した。幼いころから修道院で造っていた葡萄酒に並々ならぬ興味を持っており、内心その努力が実ったことを心の中で喜んでいた。

「お判りでしょうけれど、くれぐれも領主様方の口に入る物。決して飲んではいけませんよ」

「勿論でございます。お酒はその材料から作る許可まで全て領主様の物。絶対に一滴も口にすることはしません!」

 そう決意を表明した深夜、わたしは小さなコップを一つ持って葡萄酒の保管されている地下へ向かっていた。

「領主様にお渡しするのだから、とびきり美味しい葡萄酒でないといけないわ。ほんの一口味を見るだけなら神様も許して下さるはず」

 そう言い訳するように独り言を呟きながら地下へと降りていく。そしてつい最近造ったばかりの葡萄酒の入った樽を見つけて蓋を外した。漂ってくる葡萄の芳醇な香り。幼いころから夢来た手作りの葡萄酒……それを味見する。

「んっ、これは……!」

 樽の中身は赤い葡萄酒。普通赤と白に分かれている物だが、赤い葡萄酒は濃厚なタンニンの渋みを感じさせるもののはず……何でこれまで飲んだことのない葡萄酒の味を知っているのかしら? とにかくの葡萄酒はわたしの知っている味と違っていた。

「酸っぱすぎる! これは発酵してるんじゃない。酢酸化してるわ!」

 元々酢自体は酒造りの途中で誕生したとされる。これはこれで調味料として需要はあるが、アルマの思い描いていた葡萄酒には程遠い代物だ。その時の理想とかけ離れた葡萄酒の酸味が、彼女に己の前世に気付きさせた。

「私は、こことは違う世界で生きていた……お酒が好きで忙しい日々を生きていくのにお酒を飲んでいた……!」

 彼女は地球の日本と呼ばれる世界で、ブラック企業と呼ばれる厳しい環境で働きながら生きていた。その疲れを癒すために彼女は酒を飲んで明日への活力として過ごしていた。だからこの世界でも記憶以上に魂に刻まれた酒好きの性が、アルマを葡萄酒に執着させた。

「でも、あの時はいつも以上に酒を買ってしまって……」

 過去の最後の記憶では、日々の疲れを癒すためハメを外し過ぎて大量の酒を飲み過ぎた。そして急性アルコール中毒を起こして、そのまま意識を失い人知れず亡くなってしまったのだ。

「美味しい酒を飲みたい。その一心で私は生きて来た……!」

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