16話
「なんと……あの廃墟で麦酒を造っていたとは!」
話をしに村長の家に趣き、事情を説明すると彼も驚きの声を上げたが、すぐに声を潜めた。
「お前さんも帝国法については流石に知っているじゃろう。酒の密造は重罪だと……」
「ええ承知しております。だからこそ、私はあなたたちにお話ししたのです」
「何故、そんな事を…?」
「村長にも、村の人たちにもこの麦酒を分けてあげたいんです。好きな食べ物を持ち寄って、酒宴をしたいんです」
村長は今度は困惑のあまり声が出なかった。アルマの考えが全く理解できなかったからだ。酒を密造するのは重罪。そして飲むことも違法であるのに、酒宴を開いて村中に振舞うと言っているのだから。
「これは私なりの恩返しのつもりです。身元も分からないこの私に寝床を提供してくれた事への。ただ、私に唯一出来るのがこれだったのです」
本当は少年のおかげでもあるのだが、彼は頑なに自分の存在は伏せる様に言っていた。
「うーむ……しかしこれは……」
「なんなら領主に報告して貰っても構いません。私も自分のやっていることが決して褒められたものではないと自覚しています」
その言葉に、私の紳士な思いが伝わったのか村長は一人納得したように頷く。
「うむ分かった。村の者もきっと楽しみが欲しいだろう。きっと驚くだろうが、皆に伝えてみよう」
村の人々全員に伝えて、後日酒宴を行うことが決まった。場所は私の寝泊まりしている廃墟の前、時間は真夜中。当然この事は村の人以外には秘密で行われる。領主にも内緒の日々の農作業や労働を労う酒宴だ。私は早速廃墟に戻り、少年にこの事を伝えた。彼もまさか村長が了承するとは思っていなかったようで驚いたように言った。
「へえ、本当にするんだ。まあ、きっと楽しいものになるはずだよ」
「その為にも今からじゃんじゃん麦酒を造らないとね!」
村の人全員に酒が行き渡る量の酒を準備しなくちゃならない。しかし、少年が用意した材料があれば充分みんな酒が飲めるはずだ。どちらにしろ、酒を造る事には変わらなかったが、やりがいが生まれると自然とやる気が湧いてきた。
村長からはまだ領主が領地の観察をし始めるにはしばらく先の事だろうと聞いていたから時間はたっぷりある。それに少年が造る酒はすぐに発酵して完成する。数日中に酒宴が行う事が出来るだろう。
しかし、この酒宴は失敗に終わる事になった。それが私の処刑される原因となったのだ。しかし、これは村長や村の人々が悪かったわけではない。思いもよらない事が理由で、私たちが酒の密造している事がバレてしまったのだ。




