15話
密造酒はムーンシャインと前世では呼ばれている。誰にもばれないように真夜中の月明かりの下でこっそりと造られてきたのがその名の由来だ。一方、私たちは人が来ないのをいいことに日中からせっせと禁制品である麦酒の密造に取り組んでいる。
「ホップは麦汁を煮る時に入れて。その砕いた奴を数回に分けて入れて様子を見る」
いつの間にかホップや酵母用のパンを細かく砕くのがわたしの仕事になっていた。それを入れるタイミングや醸造作業は少年が受け持っている。何度もやってる内にかなり手馴れて来た。いい事なのか悪い事なのか……。
「よし、これが冷えたら樽に入れる前に別のホップの層で麦汁を濾し取るよ。そうすれば今回の麦酒の完成だ」
用意したホップをふんだんに使っているが、それでも充分な量残っている。これをどこから一人で集めて来たのだろうか。
「うん、いくつか出来たし今日はこれぐらいにしておこうか。お姉さんもお疲れ様」
すっかり密造作業に慣れて日常的な光景になりつつある。やってる事は違法行為なのに清々しい達成感を感じる。こうした労働の後の一杯が何よりも美味い事を前世の記憶が知っているせいだろう。
「ねえ、造ったお酒はどうするの?」
「勿論、飲むに決まってるじゃないか。これだけあれば数日は飲める。飲むために造る以外にお酒の使い方なんて僕は知らないよ」
これだけの量を二人で……食べ物は造った酒を少し村のおじさんに渡せば手に入るし、生活する分には困る事は無いだろう。しかし、何か勿体ない気がする。
「ねえ、提案があるんだけど……このお酒、村の人たちと一緒に飲まない?」
私の言葉に、少年は一瞬驚いた表情をする。
「お姉さん正気? もし酒造ってるのがバレて領主や衛兵に告げ口されたら一巻の終わりだよ。それなのにわざわざ自分からばらすような真似を……」
「これだけあるのに二人だけで飲むのはつまらないと思うの。村の人たちもきっと美味しいお酒を飲みたいはず。みんな内緒にしてくれると思うの。バレたら自分達だってせっかくのお酒を飲む機会を失っちゃうし、多分大丈夫」
前世でもお酒を大勢で飲むのが私は好きだった。みんなが楽しく笑顔になって飲むお酒は、一人で飲むのとはまた違った良さがある。
「せっかく美味しい麦酒を造ったんだもの。君も色んな人に飲んでもらいたくない?」
「うーん確かにそれはあるかもしれない……でも、何があっても僕は知らないよ」
それでもいい。村に行って村長たちに聞いてみようと思う。最初に宿屋のおじさんに交渉した時よりも、上手くいくという思いが私の中にあった。




