13話 帝国の思惑
帝国の中枢である帝都。そこの一角には富裕層だけが住まう区域があった。帝都で空を見上げる時、人々は必ずその区域の建物を目にする。そうして誰もが、そこに住むだろう貴族たちの豪華な生活を想像した。
「今年の葡萄酒もどこも似たり寄ったりだな。渋くて酸っぱくて、こんな物の為にブドウを使うなんて勿体ない」
口に含んだ葡萄酒の味にジャバー・シャットーはため息をつきながらそう漏らした。帝国でも大きな力を持つブランドハウスの一つシャット―家の主、その言葉は皇帝の言葉と言われるほどの影響力の持ち主だ。
「そう軽々しく口にしなさんな。我々以外に聞いてる者がいたら、不満一つが大ごとになりかねないのですから」
同じブランドハウスのミィジー・グレーンが諫めるが、葡萄酒の味に関しては同意するように彼女の眉間にはしわが寄っていた。
「特に商会の連中の耳に入ったら市場にどんな影響が出るか……商人どもは金のためなら何でもする卑しい連中ばかりだ」
ブランディス家のボン・ブランディスが首を振って周囲を警戒しながら言った。帝都にある己の家でも警備している衛兵が、商会と内通してるかもしれない。そう用心しなければならない程、商会の息のかかった者は何処にでも潜んでいる。
「少なくともこの葡萄酒が酸っぱい内は、下々の者たちは帝国法の下に準じている証拠ですよ」
ミィジーの言う通り、ワインの味も分からず貴族たちに酒を献上しているのは、醸造家たちが味見もしないで言われた通り葡萄酒を造っているからだ。酒を飲めるのは王侯貴族たち、上流階級のみに許された特権だ。
「こんな酸っぱい葡萄酒を飲むことが我々の特権か。偉くなるのも考え物だな」
ジャバ―が皮肉を言って一気に葡萄酒を飲み干した。帝国が統一されたとき皇帝と王たちは、領地内での自分たちの権力が維持されているかを見るため、敢えていくつかの極端な禁止令を設けた。不満を持つ者が現れた時、すぐに帝国に対する反逆として違法行為を行ったと証明させるために。その一つが酒の独占だった。
「今、部下に口直しの食事を持ってこさせる」
合図を送ると執事がやって来て、ブランディスの命令を聞くとすぐに部屋から出て行った。ほんの十数秒のやり取りだ。
「しかし最近の帝国はどうだ? 北はドワーフの連中が未だに鉄の産出を支配し、商会は酒だけでなく資源の輸送を管理している。本当に帝国の権力は安泰なのか?」
「もう100年以上も経っていて、反乱の芽は出ていない。結構な事じゃないか」
「まだ100年だ。その間で物の流通は商会が牛耳り、我々が文句を言えばいつでも止める事が出来る」
軽食が運ばれてくる。葡萄酒にならずそのまま届けられた葡萄に、柔らかいチーズ。ジャバ―は我先にと葡萄を一房掴んで実に噛り付く。
「そうすれば、新鮮な食料は食えなくなって、地下に貯まってるあの酸っぱい葡萄酒だけで過ごす羽目になる」
商会の連中は権力は持たない。代わりに金と品物の流通を持っている。それだけで、権力の天秤が何時向こうに傾くか分からない。
「だからこそ、輸送には帝国の騎士団を護衛に付けさせている。その間にリストに不足品や書かれていない物が見つかったら、すぐに商会の首根っこを締められるようにな」
要は護衛だけでなく監視も行わせるという考えだ。戦争が終わった騎士たちの仕事は密輸品の取り締まりが主になっている。
「帝国の威厳を下々の連中に分からせねばならん。近い内に騎士団に領内の巡回をさせるぞ」




