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12話

「いらっしゃ……なんだ嬢ちゃんまた来たのか?」

 私は革袋を持って村で最初に入った宿屋に来ていた。

「寝る場所は見つかったのかい? いくら頼まれてもうちも商売だからただで泊めるわけには……」

 宿屋の亭主に革袋をつきつけた。亭主のおじさんは驚いて一瞬目をぱちくりさせてから、反射的に革袋を受け取った。

「それで交換して欲しいものがあるの。パンをいくつかと他の食べ物に……」

「ちょっと待った。これで交換って飲み水なら十分間に合ってるし、いくら食い物に困ってるからって……」

 亭主のおじさんは飲み口からにおいをかぐと、驚きの表情を浮かべた。何度も確認するように嗅いで革袋の中身を覗き見ると、誰もいない部屋の中を注意深く確認して、声を抑えて尋ねる。

「嬢ちゃん、こんなもの何処で手に入れてきた?」

「詮索は無用よ。いるのかいらないのかどっちなの?」

 もし通報されたら私は一巻の終わりだ。しかし、今は私と亭主のおじさん以外に革袋の中身を知る者はいない。この秘密の交渉が失敗してもごまかす事は出来る。そうしたら村の外で他の誰かと同じように交渉する。そういう賭けだ。

「革袋、このまま貰っていくよ。それにちょっと待ってな。どうせ売れ残りはたくさんある。倉庫から持ってくる……」

 私は賭けに勝った。禁止されているという事は、それだけ一般人にとっては希少だという事だ。おじさんも麦酒を飲みたいという欲望に勝てなかった。背負って持って行くくらいパンや食べ物の入った包みを持ってきた。

「この事は他言無用よ。おじさんもお酒が飲めなくなったら困るでしょ?」

「ああ、俺は何も知らないし倉庫の食べ物はきっとネズミに食べられたんだろう」

 さらに亭主のおじさんは顔を近づけて小さな声で言う。

「たまに領主がこの村に顔を出す。月の初め頃に一度。でも、修道院に向かう時間を気にしてすぐにいなくなるが、それだけは気を付けろ。もしまた交換に来るようなことがあったら夕方の方がいい」

「ありがとうおじさん。次はきっともっと美味しいのが飲めるはずよ」

 傍から見れば怪しいやりとりだが、実際にこれは悪魔の取引の様な物だろう。しかし、交渉は大成功だ。パンを作る材料だけでなく、これでしばらく生活できる食料も確保できた。

「やっぱり他の人もお酒を飲みたいわよね。禁止されてたらなおさらね」

 宿屋から出て少年の元に戻る途中、わたしは独りそう呟いた。極度に規制されたらその分反発も生まれる。きっと今もわたしの様に、密造したお酒でこのような取引を行っている人はたくさんいるだろうと容易に想像できた。という事は、規制をする側も同じように対応する手段を持ち合わせていることも。

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