118話 最終話
さらに数日が経過し帝都も徐々に日常の落ち着きを取り戻すと、ようやく元老院の出した戒厳令が解かれ、城門もようやく解放された。エルフの国との戦争も終わったならば、人の行き来もこれから増えて賑やかになっていくだろう。アルマたちも自分たちの馬車に乗って、外界へと出る準備を終えていた。
「それじゃあ2人とも、元気でいてくれよ。もし帰ってきたら是非また寄ってくれ。その時は店も大きくなってるかもしれないからさ!」
2人の出発にロンが見送ってくれた。その手には葡萄ジュースの入った革袋がある。
「教えてもらったジュースの造り方もありがとう! いつかは町の子供たちも飲んでるくらい広めさせてみせるよ!」
「美味しく造ってね! こっちも珍しいお酒を持ってくるから!」
「それじゃあ、出発!」
ロンとの別れを惜しみながら、ついに再び帝都から外へと出た。
「さて、今回も当てはないけれど、どこへ向かおうかな?」
街道をゆっくり行きながらミトソが言う。いつだって旅は行き当たりばったりだ。そして、その先で人に巡り合ったり厄介事に巻き込まれたり、そういう旅がまた始まるのだろう。
「北方を目指すのはどう? 帝国のさらに北の土地には何があるのかしら?」
「うーん北の地は寒くて辺境の土地だからね。僕も殆ど行った事がないな。そんな土地に向かいたいの?」
ミトソもまだ行った事がないならなおさら向かわなければ。まだ見ぬ美酒が眠っているかもしれない。アルマはそう思った。
「そうよ、行った事がないから行ってみるの。寒い土地なら途中で防寒具も集めておかなきゃいけないわね」
旅の路銀はちゃんと用意してある。けれど、それでも足りなかったらお酒がある。自分たちが飲み切らなければ、それで交換もできるだろう。もうお酒は規制品ではないから売買するのも容易くなっているはずだ。
「南方の蛮人達の土地も気になるけれど、彼らは暴力的だからなぁ。時間はあるしアルマの言う通り先に北へ向かってみようか」
ミトソはそう言いながら北に進路を取って馬車を進めていく。寒い土地で飲むお酒はどんな物か、アルマは今から楽しみだった。追放された修道女の乙女と、忘れ去られた酒の神の呑気な旅が始まった。
数年後、アブールという錬金術師が消毒に使えるアルコールの精製に成功し、帝国の学会でその製法と論文を提出した。それと同時期に帝国の北、雪に閉ざされた地にある樹木から造られたという変わった酒が帝都へ運ばれてくるようになった。偶然にも、アブールの論文にはある女性への謝辞が書かれており、樹木で造られた酒の製造法を広めたという旅の女性と同じ名前をしていたと噂が広がった。
何時しか、醸造家の間で旅の女性に酒を振舞うとその女性は酒の女神となり、感謝の褒美に美酒の製造法を教えてくれるという伝承が、帝国の各地で伝わるようになったという。
これで一応の完結とします。読んでいただきありがとうございました。




