116話
その様子を見てデュオンは苦々しく笑った。
「ふっ、お前たちの事だ、やはり飲んでいたか。しかし、広場のお触書を見ただろう? 一般市民が酒を飲む事は違法ではなくなった。そもそも騎士団は解体された商人ギルドの後始末で忙しい。わざわざお前たちをひっ捕らえようなどと思ってないから安心しろ」
その言葉で、ロンがほっと息を吐いた。しかし、忙しいはずのデュオンがどうして会いに来たのだろうか。
「アルマと言ったな、これまでずっとお前の酒に対する執念ともいえる情熱を見て、俺は個人的な偏見を持って憎悪していた。だから、その非礼をまず最初にお詫びがしたい」
そう言って騎士団長の身分にも拘らず、深々とデュオンは頭を下げた。
「本当に申し訳なかった。だが、その情熱が今回の騒動で、息苦しかった帝国の慣例を動かしたと言っても過言ではない。その功績とお前の周りの人間を見て、己の人を見る目の未熟さにも気付かされた。ありがとう」
「凄いや。騎士団長直々の感謝のお言葉だ。勲章でもくれるのかな?」
横から茶々を入れるミトソを、ロンが口を塞ぐ。
「しばらくして帝都の厳戒令が解かれたら、俺は南方の蛮人達の迎撃に赴く。同盟国のドワーフたちの援助がより必要となるため、資源でなく彼らの鍛冶技術で造られた武具を今後注文することになるだろう。彼らの造る装備は帝国の物より優秀だからな」
それならば、きっとドワーフたちも忙しくなる。鍛冶仕事の後、疲れを癒すためにガブの醸造する黒ビールを飲みに来る客も増える事だろう。
「だからこうして、直接感謝を伝えられる内に伝えに来た。本当にそれだけだ」
「だったらついでに、騎士団長も一杯飲んでいかない? まだここに葡萄酒が残っているよ」
デュオンは少し苦々しく笑った。
「いや、流石に俺は自分で飲むのは止めておこう。あまり酒にいい記憶がない物でな」
そう言って断るデュオンを見て、アルマはハッと閃いた。
「デュオンさん、ちょっと一瞬待ってて!」
そう言って、アルマは地下から一個の革袋を持ってきた。
「これはお酒じゃないわ。美味しい帝国の葡萄で造られた葡萄ジュース! ぜひ持って行って!」
「葡萄ジュース?」
デュオンは受け取ると恐る恐る匂いを嗅いでから、一口飲んでみた。そして、その美味しさに驚いた。
「甘くて美味い。これはお酒じゃないのか?」
「普通に葡萄の果汁を革袋に入れても時間が経つと果汁は酒に変わっちゃうけど、一度火を通してお酒にならないようにしてあるの。これならお酒が苦手なデュオンさんでも飲めるでしょう?」
アルマの気遣いにデュオンは感激したようだ。これまで見た中で一番気を許した様な笑顔をしてくれた。飲めない人でも楽しく飲める物で、一緒に飲む事も彼女は好きなのだ。




