114話
それから数日、ロンの家に居候として過ごした。連日衛兵や騎士団の連中が忙しそうに帝都を走り回っていた。商人ギルドは解体され、帝都に集まる物資の管理を騎士団や元老院のブランドハウスたちが引き受けて、その激務に奔走しているようだ。その管理体制もまだ完成していないのだろう。
ロンは自宅で雑貨屋を開くため、その手伝いでアルマとミトソは日々を過ごしていた。そんなある日、外に出たロンが息を切らせて帰ってきた。
「ニュースニュース! 大ニュースだ2人とも!」
あまりの勢いにびっくりしていたが、彼の顔は驚きと喜びでいっぱいだった。
「ロン、何があったの?」
「さっき帝都の広場で御触れが張り出されていたんだ! 規制品の緩和だって!」
これまで帝国が法に触れる嗜好品など、貴族階級でしか利用を許されなかった品々を一般市民も利用を許されるようになるという。恐らく商人ギルドが規制品を敵国に横流しして私腹を得る様な事を止めさせるためだろう。これまで宗教的に高価だとされた物も、一般市民が手に入る様にして市場全体の敷居を下げるのが目的だろうとミトソが予想した。
「それで、君たちにはとても嬉しい情報だ。なんと酒もついに解禁された! 一般市民もお酒を飲めるようになったんだ!」
「本当!?」
なんとお酒も飲めるようになったという。葡萄酒はこれまで貴族階級しか飲めない権威の象徴の様な物だった。それが市民たちにも普通に飲めるようになったという。
「勿論、酒を造れるのはこれまで通り醸造を認められた者だけらしいけれど、その認可も緩和されるらしい。君たちほどの腕なら、きっと醸造家になれるよ!」
「でも、どうしてそこまで敷居を下げたのかしら? やっぱり商人ギルドが密造酒を造ってたから?」
密造酒の製造者はアルマだが、それらは商人ギルドの倉庫に残してきた。それで商人ギルドが密造酒で新たに利益を得ようとしていた証拠になっただろう。
「理由はそれだけじゃないらしい。何でも元老院のブランドハウスと呼ばれる貴族たちの一部が、とんでもない物を飲んでいたことが分かったんだ」
「とんでもない物って?」
「なんと鉛入りの葡萄酒だって!」
アルマは前世で聞いたことがある。昔の人間は酢酸鉛が甘い事を知って出来の悪い酸っぱいワインに入れる事で甘くしていたという。当然そんな物を飲み続けていたら鉛中毒まっしぐらだ。
「なんでも帝都近くのある修道院が、葡萄酒が足りないのを誤魔化すために鉛を入れて、本来なら納入できない質の葡萄酒を納めていたのが、ブランドハウスの貴族たちに気に入られて、鉛入りの葡萄酒を納め続けていたらしい。それで貴族たちに被害が出たから、その反省として醸造家がちゃんと味見して大丈夫なのを造らせるためだってさ」
「葡萄酒が足りなくなった修道院……」
アルマには思い当たる事があった。エグノールスが最後に言っていたのはこの事だったのかもしれない。




