112話
アルマは夢の中にいた。これが夢だと分かったのは、既に一度体験したことがあるからだ。見覚えのある景色。帝国にあるという玉座の間だ。相変わらずその席は空いている。本当の主はこの玉座の後ろにいるのだ。
「小娘、よくも裏切ってくれたな……貴様をこの世界に呼び出したのは我であるぞ」
低く、空気が振動するような声だ。怒りを必死に抑えているような、そんな感情のこもった声が、玉座の後ろにそびえたつエグノールスの石像から聞こえてくる。
「勝手に呼び出したのはそっちでしょ。それに、私をただ利用したかっただけじゃない」
帝国の新たな皇帝となり、エグノールスの言うままに帝国を操らせる。そんな傀儡になるのは嫌だった。だから彼女はその申し出を断った。
「それだけではない。貴様のせいで帝国は守りに入った。争いによる支配と統率こそが、繁栄への道のりなのだ……貴様のせいで帝国は徐々に衰退していくだろう」
「自分の思い通りにいかなくなったから、力を貸すのが嫌なだけでしょう? 独りで文句を言い続けてればいいわ。その間に、人も考えも変わり続けるんだから」
「隣にいる人間がいつまでも味方とは思うな……争いの火種もいずれ生まれてくる。その時に、貴様のせいで後悔しなければいいがな」
「貴方もいずれ考えが変わるかもしれないわよ?」
争いなんて起きない方がずっといい。少なくとも、アルマはそう思っている。
「最早、貴様が生きてる間に会う事もないだろう。だが、このエグノールスの目を欺くとは、異世界の小娘と言えど、魔女と言われるのも納得ではあるな」
「何それ、一体どういう意味……」
答えを聞く前にエグノールスは去ってしまったらしい。急に暗幕が下りたように目の前の景色が黒く塗りつぶされていく。エグノールスは何が言いたかったのだろうか。
「あ、おはよう……と言っても、とっくにお昼の時間も過ぎたよ」
目が覚めるとミトソが顔を覗き込んでいた。アルマはどこかの屋内でベッドに寝かされていた。
「ミトソここは……頭が痛いわ」
身体を起こすが、頭の中に鉛が詰まったかのように重く感じる。完全な二日酔いだ。
「帝都にあるロンの家だよ。あの後、彼が家に泊めてくれたんだ」
「お、お嬢ちゃんの声が聞こえたぞ。よく無事でいてくれた!」
アルマの声を聞いてロンが部屋に入ってきた。彼の様子を知らなかったから、ロンが無事な事を知って安心した。
「ロン、無事でよかった。捕まった後、どうなったのか心配だったのよ!」
「その件については本当にすまなかった。でも、あのガーメットを酒で酔い潰すなんて、君は凄い酒飲みだ!」
聞きたいことは山ほどあった。けれど、その前にコップ一杯ほどの飲み水が彼女は欲しかった。




