103話
「皇帝になったら私は何をできるの?」
「無論汝の望むままだ。我が威光があればブランドハウスも認めざるを得ない。神に認められた皇帝として帝国はお前の下で一つになり、汝は我の恩恵を受けながら帝国を繁栄させていく事になる」
要は帝国の象徴となって、内部の崩壊を止めるのがエグノールスの言う役目なのだろう。そしてもう一つ気になっている事が彼女にはあった。
「お酒は……皇帝になればお酒は飲めるの?」
「それも無論だ。我が法典により貴族階級以上になるため皇帝は自由に酒が飲める。我は選ばれた者にこそ権利を与える。それが汝であるのだ」
皇帝になれば今まで違法だった酒の密造も必要なくなる。する必要がないのだ。帝国では貴族や王族であれば、酒を自由に飲む事が出来る。命令一つで目の前に醸造家たちの造った葡萄酒が飲み切れない程並べられるだろう。
「そう、だったらその話……」
アルマの答えは決まった。いや、初めからこの答えしか頭になかった。
「飲めるわけないでしょう!」
彼女はエグノールスの要求を拒否した。
「何故だ?」
エグノールスが問う。その声は冷静だが、さっきまでなかった怒りを孕んでいた。
「私は修道院で帝国の民として過ごしてきた。お祈りも毎日欠かさずやってきた。でも、貴方はそれまでに一度でも答えてくれた事はなかった!」
それが今になって突然現れて、皇帝になれなんて虫が良すぎる。ミトソの様に神という存在がいる事は彼のお陰で分かる様になった。しかし、エグノールスは彼女が生きていた人生の中で、これまで帝国とその民たちに存在を見せるような事はしてこなかった。
「言っただろう? 異界の者の力が必要だと。そして試練を与えてお前が相応しい者か見届けていたと」
「都合がよすぎるのよ。何度もピンチな目にあったけれど、それも周りの人たちのお陰で乗り越える事が出来た! 見ているだけの貴方と違って!」
魔女として処刑されそうになった時も、助けてくれたのはミトソだった。一見自分勝手な性格だと思っていたけれど、なんだかんだで彼はアルマを守ってくれていた。
「それに重要な事があるわ。貴方はお酒を自由に飲めると言った。でも、それじゃあ意味がないのよ」
エグノールスが彼女の事を全く理解していないと確信させるのに十分な理由があった。彼女が皇帝になって自分だけ自由に酒が飲めればそれでいいと思っていた事だ。
「お酒は皆で楽しく、身分なんて関係なく飲めなきゃ意味がないのよ。玉座で一人虚しく飲む酒なんて、ちっとも楽しくないわ」
誰もが自由に好きなように飲む事に意味がある。結局のところ、エグノールスは彼女を皇帝にして自分の傀儡にしたいだけだと、彼女はそれでわかった。




