102話
ここは何処だろう。どこかの宮殿かお城の廊下にいるようで。天井が高い。外はまだ夜で、月の光が飾り窓から入ってくるだけで薄暗い。自分は商人ギルドにいたはずじゃなかったか。いつの間に外に出て来たのだろう。
そもそも、彼らがそう簡単に外へ出すはずがない。しかし、外の光が入るという事は、ここが地下の監禁部屋じゃない事だけは分かる。出口を求めて長い廊下を進んで行くと大きな扉がたたずんでいた。女性の力ではとても重かったが何とか開ける事が出来た。
着いた先は玉座の間のようだ。しかし、肝心の玉座には誰も座っていない。
「今の帝国には皇帝は存在しない」
重々しい声が空気を振るわせて響く。誰が何処から喋っているのか、声の主を探す。
「元老院で実権を握るブランドハウスは、それを帝国の民に隠している。庶民にとって皇帝など雲の上の存在だ。居ようが居まいが殆ど関心は持たない」
声は玉座の方から聞こえてくる。しかし、そこには誰もいない。そこでアルマは気づいた。玉座の背後には、天井にまで届く巨大な石像が鎮座している事に。
「空位のまま帝国という虚構の威信だけが残った。故に帝国という巨大な国は、内部から既に崩壊を始めている。その終焉も遠くはないだろう」
声は間違いなくその石像から聞こえていた。
「もしかして、貴方が帝国の神エグノールス様!?」
という事は、ここは帝国の皇帝の居城なのだろうか。しかし、皇帝は存在していないと神は言っている。
「異界の申し子よ、その通りだ。我こそが帝国の守護神にして偉大なるエグノールス。汝の魂をこの世に連れて来たのも我が思慮の故」
アルマは驚愕した。彼女がこの世界に転生したのも、帝国の神の仕業だという。様々な出来事に直面してきたが、それでも考えが追い付かない程のショックを受けた。
「そんな、どうして私なんかを……?」
「それは汝が選ばれたからだ。このままでは滅びゆく帝国を救うには、この世の者では不可能と断じた。故に異界からその記憶を引き継ぎ、異なる考えを元にする者が必要なのだ」
「帝国を救う? それって……」
「汝がこの帝国の玉座に座し、新たな礎を築くのだ」
エグノールスはアルマこそが帝国の新たな皇帝になるべきだと、そう言っている。修道院を追放された孤児が、魔女と蔑まれながら各地を放浪し、そして皇帝の座に……とても信じられないような波乱万丈の人生がここまで変わるなんて、彼女は想像だにしていなかった。
「でも、それならどうして今までその事を隠していたのです?」
「それらは我が試練の内。だが、再び帝都に戻ってきた汝を見て、我もついに認めた。汝こそ帝国の皇帝に相応しいと!」
数々の苦難を乗り越えたアルマを、エグノールスは皇帝に認めるという。




