10話
ごくりと喉を鳴らして最初の一口を飲む。発酵する過程で生じた炭酸ガスの刺激が口いっぱいに広がり、酢のツンとくる物とは違う爽やかな酸味、そしてアクセントに僅かな苦みが身体全体に染み渡るようだった。
「これよ! これこそがビール! ああ、まさか再びこの味と出会えるなんて……!」
前世に味わったクラフトビールの味が思い起こされる。労働終わりにその疲れを全て流してくれるようなすっきりとした爽やかな味と苦み。それが世界中の労働者が求めてやまないビールの味なのだ。
「うん、これだけの材料で出来た物としては上々かな」
いつの間にか少年もカップを用意して、味を確かめるように少しずつ飲んでいる。
「ちょっと! 子供は飲んじゃ駄目よ! これは全ての働く大人たちのための味なんだから!」
「子供はダメって……何歳ならいいのさ」
この世界では飲酒可能年齢は何歳だったかしら? そもそも貴族しか飲めないから、そういう法律は分からない。
「ええと、少なくとも私と同じ20歳からじゃなきゃ駄目なのよ」
前世で生きていた日本ではお酒は20歳からだった。飲酒可能年齢は国によって微妙に違いがあったが、そういうことにしておこう。
「じゃあ僕は全然大丈夫だよ。これでも立派な大人ですから」
ええ!? どう見ても少年にしか見えないのに? でも、ビールの造り方だって知っていたし、本当に20歳越えた大人なのかもしれない。
「じゃあ君、何歳なの?」
「さぁてね。少なくともお姉さんよりは全然年上だって事は確実かな。だからお酒を飲んでも大丈夫だって事」
自己申告だけど、それならいいでしょ多分……そんな事より、今は目の前のビールが何よりも大切だ。一杯だけじゃこの喜びは満たされない。もっとたくさん飲まなければ……!
「それじゃあ他に気にすることはないし、この麦酒を二人で分かち合いましょうか」
「せっかく造ったばかりなのに飲み干すようなことはしないでよ。まあコップで数杯飲む分には問題ないと思うけど」
「では、初のビール完成を祝って、乾杯!」
前世以来からようやく口にしたビールは、アルマにとって格別の味わいだった。本来ならさらにここに風味付けのホップの様な材料を加えるのが現代のビールだが、醸造を手伝い、ちゃんと発酵して出来た初めてのビールだ。その醸造の苦労と達成感が他のビールに匹敵するような美味しさを彼女に与えていた。
アルコールが禁じられたこの転生先の異世界で、お酒を飲む楽しみと今再び出会った。




