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SF作家のアキバ事件簿230 ミユリのブログ 蒼き血に萌ゆる者

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第230話「ミユリのブログ 蒼き血に萌ゆる者」。さて、今回もミレニアムの頃の秋葉原を描くスピンアウトシリーズです。


秋葉原の地下で"覚醒"した腐女子を狩る謎の組織。スーパーヒロイン化した彼女達が恐怖の日々を送りますが、その手先は意外にも身近な場所に…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 首都高の逆走車

御帰宅したら、推しがとびきりの笑顔でお出迎えしてくれる。コレぞTO(トップヲタク)冥利につきるというモノだ。


「おかえりなさいませ、テリィ様。私、コレから2時間の休憩なのです。テリィ様は何か御予定でも?」

「別に。だって今、ミユリさんの休憩を知ったワケだし」

「タマには首都高をドライブしてみたいな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


首都高5号池袋線。僕達は、SASジープでドライブと洒落込んでる。運転はメイド服のミユリさんだ。


「私、今日は何か普通のコトをしたかったのです。普通の推しとTOみたいに…ホラ、このトコロ、何もかもが異常でしたから」

「乙女橋パークの"秘密の部屋"騒ぎとかね。確かに色々あったからな」

「あ。テリィ様のお好きな slow swing big band JAZZ…」


ミユリさんはボリュームを上げる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"6月18日。世界で1番大切なTO様と一緒に過ごせる幸せな時間。髪が風にそよぎ、mellow なJAZZが、私の心を代弁してくれる。大切なTO様が私の大切な曲を好きだとわかり、一緒に耳を傾ける…この瞬間だけは誰にも邪魔は出来ないわ。たとえ、一瞬で現実に引き戻されるようなコトが起きたとしても…"


「ミユリさん、逆走車だ!」


水色のセダンが突っ込んで来る!運転席のインバウンドはハンドルから完全に手を離し顔を覆ってる…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田消防(アキバファイア)の救急車"神田橋77"の中で、ミユリさんは、真っ赤な頭部固定具をつけたママ失神してる。


「貴方のガールフレンドは血圧124-84。貴方ご自身はご気分は?耳鳴りとかしませんか?」

「僕は大丈夫です。ソレより彼女は?」

「とりあえずバイタルは正常。命に別状はないと思いますが」


救急隊員の声が遠い国の言葉に聞こえる…


第2章 元カノ達のルール


今年のアヲデミー賞を総ナメした怪獣SF映画"メカゴジラ-2.5"のコンセプトカフェが大当たりだ。世界中からインバウンドが推し寄せて連日の超満員。


「おかえりなさいませ、お嬢様…あら?」

「ただいま…あ、ちょっと失礼」

「待って、マリレ。何処に行くつもり?」


ウェイトレスもメイドなら客もメイドだ。何しろココはアキバだからね。

逃げるマリレをスピアは逃がさない。メイドの手首をメイドがつかむ絵。


「マリレ。ナゼ私を避けるの?」

「別に」

「どう見ても避けてるわ。目を合わせようとしないし、そうやってウソつくし」


早くもウンザリ顔のマリレ。


「スピアのマシンガントークに付き合うのが面倒だからょ。わかったらもうほっといて」

「嫌ょ」

「痛っ」


歩き去ろうとするマリレは手首を掴まれる。その時スマホが鳴り、ソレを良いコトに逃げ出すマリレ。


ところが、今度は腕をつかまれる。


「待って。ママ、もう御屋敷(コンカフェ)に電話スルのヤメて」

「違う。テリィだ」

「テリィたん?かけ直すわ。今お取込中なの」


アッサリ切ろうとするスピア。


「待て。交通事故に遭ってミユリさんがビンゴだ」

「交通事故?ミユリ姉様は無事なの?」

「え。交通事故?」


スピアのスマホを奪い取るマリレ。


「テリィたん、詳しく話して」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


外神田ER。緊急ゲート。


「アラサーの美人メイドです。後頭部を強く打って意識を失っています。血圧120-64。脈拍90。呼吸数は16です」


ERナースが点滴スタンドを持ちストレッチャーと並走する。みるみるナースやドクターが駆け寄って来て、廊下を走るストレッチャーに次々ととりつく。


「奥に運んで!君は連れ…あ、テリィたん?あの国民的SF作家の?」


僕に問いかける女医。


「YES」

「意識を失ったのはいつ?」

「事故の直後にはもう意識がなかった」


女医は髪をかき分けながら…


「お2人の関係は?」

「推しとTOだ」

「身元は?」


ERナースが駆け込んで来る。


「身元がわかりました」

「家族に連絡して。モニターの準備。CBCとSMA12を。直ぐに血液検査ょ」


女医は、ペンライトでミユリさんの瞳を見る。次々と電極がつけられて逝く。僕は呆然と見守るだけ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田リバー沿いの秋葉原メイド協会。


「トポラさん。メイドが病院に運ばれたそうです」


呼び止められるトポラ。因みに彼女は協会のカウンセラーでメイド服。何しろココはアキバだからね。


「交通事故に遭ったらしいわ」

「ええっ誰が?」

「国民的SF作家のテリィたんと推しの何とか言うアラサーメイドです。詳しいコトは未だ不明」


チャンス。ほくそ笑むトポラ。


「2人とも良く存じ上げてます。後の連絡は私の方で取りましょう」

「助かります。では、頼みますよ」

「わかりました」


後ろを向きスマホを抜くトポラ。


「メトサです」

「至急"外神田ER"へ急行して。"トラベラー"の証拠が何かつかめるカモしれないわ」

「了解」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


外神田ERに駆け込むスピアとマリレ。病院内はカラフルなスクラブを着た医者やナースでごった返してる。

ランウェイを歩くような颯爽とした歩調のメイド2人は一直線に僕に詰め寄り、上から目線で責め立てるw


「何てコト!テリィたん、何が起きたの?」

「首都高をドライブしてたら急に逆走車が飛び出して来た。ソレ避けようとミユリさんがハンドルを切ったら…」

「今は外に出てください」


中年のERナースが割って入る。


「待ってくれ。僕達は家族(も同然ナン)だ」

「治療の邪魔なんです。お引き取りを」

「貴女、好きょ」


いきなりERナースの手首をつかむマリレw


「貴女のようなナースがいてくれれば、とても安心だけど…ね?お願いします」

「えっ…いけない子ね。静かにしてるのよ」

「ありがとう。えっと、スザン」


名札を見て名前で呼ぶ。微笑みを残し去るナース。


「姉様の血を取り返してくる」


スザンの後を追うマリレ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


双子のメイドが"hospital personnel only"と描かれた扉を開け、キョロキョロしながら中に入る。


後ろ手に扉を閉める。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「血液検査はマズいわ。"覚醒"したスーパーヒロインの血は、時間が経つほど蒼くなるの」


ベッドの周りを腕組みして歩くエアリ。


「え。じゃ検査されたら困るな。今までこーゆー時はどーしてたンだ?」

「今まで姉様がデート中に事故るナンてドジ踏んだコトなかった」

「おいおい。今回、声をかけて来たのはミユリさんの方だぜ?」


反論虚しく責める視線のエアリ。


「…じゃ病気とかになった時は?」

「病気なんてならなかった」

「そーですか」


トホホ。


「あの姉様の血液サンプルを取り返さなきゃ」


瞬時に豹変するエアリ。


「テリィたんの血液と交換させて」

「あのな。この時空じゃ男女は血液が特徴的に違うんだ。1発でバレるぜ」

「じゃ誰か女子で良い人いない?…元カノとか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「え?はい、わかってるわょミクス。モチロンょ。では、次長検事閣下。本件はハイウェイポリス(首都高ポリス)が引き取ります。OK?」


スマホは切ったが怪訝な表情は消せぬママ、溜め息をつくのは首都高ポリスのリルラ…僕の元カノだ。


「テリィたん。今度は何をヤラかしたの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


外神田ER血液サンプル室勤務のスザン・スサンは、"Msミユリ血液サンプル"とレッテルの張られた試験管を遠心分離器の横にあるスタンドに立てる。


「あら。おやつの時間だわ」


階下のコンビニに忍者飯を買いに逝く。入れ違いにサンプル室に入るマリレ。試験管スタンドを探す。


ソコへ…


「しめしめ。誰もいないわ」


さらに、もう1人迂闊な独り言を口にしつつ、橙色のスクラブを着た女子が入って来て試験管を探す。


慌てて身を隠すマリレ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミユリさんの病室をリルラが訪れる。


「来たわょテリィたん。今度は何?」

「え。リルラ?頼んだのはミクスだけど」

「だから!最高検察庁の次長検事に何を頼んだのかって聞いてるの」


青いミニスカは首都高HPの制服。凛とした眼差しは昔から変わらない。根は乗り物ヲタクなのだが…


「久しぶりだね、リルラ。今日は、君の血を取らせて欲しいンだ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


外神田ER血液サンプル室。スタンドの試験管を1本1本探す怪しいメイド(今はナースのコスプレだがw)。


突然扉が開いて、忍者飯をボトルで買って来たスザンが帰って来る。怪しいメイドを厳しく詰問スル。


「何をしてらっしゃるの?」

「失礼。部屋を間違えましたわ」

「ちょっと待って!」


止める間もあらばこそ怪しさMAXのママ消えるメイド。不審に思いつつも気を取り直し着席するスザン。


物陰で息を殺しているマリレw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「テリィたん。貴方にマジ任せて良いの?」


差し出された腕に下手クソなゴムバンドの縛り方をしてるとリルラは不安そうな声で不平を漏らす。

ソレを壁にもたれ腕組みして見下ろしてるエアリ。扉を薄く開け外を警戒している見張りのスピア。


「任せろ。昔、イメクラの子と同棲してた時に、夜な夜な献血プレイで盛り上がってたンだ」

「同棲って渋谷の百軒店で?…でも、なんでこんなコトをスルの?」

「後で説明スルょ」


僕は注射針を刺しあぐねてる。


「…テリィたんは、最後の元カレだから信用してるけど、マジで大丈夫なのょね?」

「大丈夫さ」

「テリィたん!誰か来るわ」


イライラと割り込むスピア。


「テリィたん、どいて。私がヤルわ」


僕をドンケツでドケるエアリ。


「リルラさんだっけ?しばらく目を閉じてて」


僕はリルラの正面に回って話しかける。


「ありがとう、リルラ」

「急いで!何処でもランダムで早く血を抜いて」

「エアリ、逝きまーす」


機動戦士ランダム?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び血液サンプル室。試験管を遠心分離機にかけるスザン。マリレは偶然を装って物陰から出て逝く。


「スザン・スサン」

「あら、先程のメイドさん?何か用?」

「お願いがアルの」


振り返ったスザンの瞳を見つめるマリレ。


「何かしら」

「貴女、百合でしょ?私とデートして欲しいんだけど。ダメかしら」

「え。…こんなヲバさんと?マジからかったりして悪い子ね」


百合を否定しないスザンw


「ヤメて。貴女はヲバさんなんかじゃないわ。ソレに秋葉原のメイドは、貴女が考えてるよりもズッと大人ょ。百合の経験も豊富。私達、きっと上手くイクわ」


長口上を述べながら、マリレは廊下で待機中のスピアからリルラの血液の入った試験管を手渡される。


「ホラ。若いメイドってワガママなのが多いでしょ?みんなガキ過ぎるの。私は、貴女みたいなヲトナ女子の方が好みょ」


スザンは再び背中を向ける。その隙にスピアから受け取った試験管をスタンドの試験管と入れ替えるw


「メイドさん。貴女は間違ってるわ」

「何が?」

「そんな風に言ってもらって、とても嬉しいけど…返事はNOよ」

「じゃ仕方ないわ。諦めます」


あっさり引き下がるマリレ。呼び止めるスザン。


「待って!あと3年して気持ちが変わらなかったら…その時にスマホして」


"please keep your workarea clean"という標語をバックにスッカリお姉さん目線で微笑むスザン。


「わかったわ」


血液サンプル室の扉を後ろ手に閉め、部屋から出て逝くマリレ。ソレを物陰から見ている双子メイド。


第3章 上目遣いの待合室


ICUから追い出された僕達は、外神田ERの待合室にいる。エアリ、マリレ、スピアのメイド組と制服のリルラは着席。あぶれた僕は柱にもたれているw


目の前を患者や付き添いの人、車椅子に松葉杖に眼帯、包帯、お見舞いのバルーンを持った子供などが行き交う。険しい顔をしてるリルラに話しかける。


彼女の膝に手を置く。


「リルラ」

「何?」

「…そろそろ首都高HPに帰ったら?」


恐る恐る逝ってみたら…案の定、怒り出すリルラ。


「テリィたん。貴方は他人に知られたら、私は警官をクビになるようなコトをさせておいて、何の説明もせずに追い返すつもりなの?それじゃ私、あまりに都合の良いバカ女じゃない?」


刺すような視線だ。別れ話をした日を思い出す。


「帰ってょ。テリィたんはそう言ったでしょ」


火に油を注ぐマリレ。直ちに大炎上。


「そう?テリィたん、貴方マジ都合の良い元カノがいて良かったね」


立ち上がるリルラ。


「待てょリルラ」


追う僕。僕を追うエアリの手首を掴むスピア。


「大丈夫。テリィたんは何も喋らないから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


外神田ERの廊下で愁嘆場だ。


「待つんだ、リルラ」

「私、今までずっと待ってた。テリィたんが何かを打ち明けてくれるのを」

「だから…ウルトラ微妙な話ナンだょ」


振り向くリルラ。大きな瞳で僕を見上げる。


「ソレだけじゃ私、引き下がれないょ。ホントのコトを話して」

「リルラ、お願いだ。どうしても話せない。そもそもミクスに話したのに何でリルラが来るンだ?」

「ミクスには話したの?あの女…ミクスも私も同じ元カノでしょ?元カノにも順位がアルの?私じゃダメなの?」


何でそーなルンだ?さすがに答えに詰まっていたら何と助け船はリルラ自身が出してくれる。lucky。


「…わかったわ。ドラッグね?テリィたんの今カノのメイドさんはジャンキーなのね?2人でドラッグをやって、頭がおかしくなった時に首都高で事故って、今、生死の境を彷徨ってる。そーナンでしょ?ソレで、この私を利用したンだわ。スピアもドラックをやってるから、彼女の血も使えナイってワケ?」


そっか。最初からスピアの血を使えば良かったか。しかしリルラ、さすがは警察、冤罪作りの達人だw


妄想は続く。


「…ソレで、私に白羽の矢を立てた。だって、今でもテリィたんにゾッコンの私は、いつだってテリィたんの言いなりだから」

「待てょ(てか全然逝いなりになってナイしw)」

「正直に言って。マジでホントのリアルを」


恐ろしい眼力だ。現役警官はダテじゃナイ。


「…わかった。実は全てアキバでハマったドラッグのせいナンだ。すまない」


すると、リルラは長い溜め息をつき、クルリと振り返ると一言も発するコトなくスタスタと歩き去る。


その後ろ姿を呆然と見送り、負けずに溜め息をついてたら廊下の角からエアリがひょっこり顔を出す。


「ミユリ姉様の意識が戻ったわ」


フト気づくと、エアリはヤタラ胸の谷間を強調したメイド服を着てる。こんな時まで巨乳なのか君は。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


トゴゥ先生は外神田ERの院長で、駅前に野菜市場があった頃からヲタクの世話をしてくれてる名医だ。


「貴女のヲタ友がどんなに心配したか、わかっているの?万世橋(アキバポリス)が押しかけて来て、カルテのコピーを1枚残らず採っていったわ。もぉ大変な騒ぎだったのょ?」

「ごめんなさい、トゴゥ先生」

「しかし…スゴい回復力ね」


ミユリさんの喉の奥を照らしていたペンライトを胸ポケットにしまいながらトゴゥ医学博士は溜め息。


「運が良かったのかしら。数時間前はまるで違っていたのに…テリィたん。貴方はホントに大丈夫?眩暈(めまい)や頭痛は?」

「no problem。OKだょセンセ」

「もう大丈夫ね。念のため、明朝MRI検査をしてみましょう。あくまで念のためだけど。今晩は入院してもらって、明日MRI」


すると、メイド達が猛反発。


「らめぇ!ウチの姉様は、検査なんか受けなくても大丈夫ょ!」

「ホントにマジでリアルに大丈夫。ほら、姉様は病院って苦手だし」

「ええっ(何なのこのメイド達w)。わかった。無理をしなければ良いわ。でも、ココ数日はおとなしくしてなさい。異常を感じたら直ぐに連絡して」


全メイドが唱和。


「わかりました!」

「良く出来ました。じゃ退院ょ」

「センセ、大変お世話になりました。どうもありがとう」


片手を上げて答え、歩き去るトゴゥ医学博士(センセ)


「ところで、テリィ様。そちらのメイド服を着ていない方はどなたですか?」

「あ。ミユリさん、紹介するよ。リルラだ。彼女は、僕の…」

「元カノです。はじめまして、今カノさん」


ミユリさんはユックリと微笑む。


「はじめまして」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


外神田ER内を足速に歩く僕達。全員がミユリさんに寄り添うようにして歩いてる。まるで歩く輪形陣w


「ミユリさん、マジ心配したょ」

「ごめんなさい、テリィ様。もう大丈夫です」

「姉様、急ぎましょう…あら?私、ポーチを病室に忘れてきちゃったわ。テリィたん、困った時はお互い様って知ってる?」


何なんだょ仮にも僕は御主人様だぞ。


「わかった。取って来る。ミユリさんを早く安全な場所に連れて行ってくれ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


病室に戻りドアを開くと…


「おや?どちらサマ?」


黄スクラブと橙スクラブの女子が2人、部屋の後片付け?をしている…いや、何か探し物か?

僕が声をかけると、2人は顔を見合わせてから眼力MAXトラウマ級のガンを飛ばしてから…


肩をドンとぶつけて出て逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕達のアキバの居場所(アドレス)"マチガイダ・サンドウィッチズ"。みんなでミユリさんを囲んでヒソヒソ話。


「病室でゴミ箱を漁ってた女子は、この前、僕をカフェまで尾行してたメイドだ。間違いないょ。で、もう1人のカルテを見ていた女子は、スザンのルームでミユリさんの血液サンプルが入った試験管を漁ってたメイドだ。2人は顔が似てる。双子カモな」

「フン。いくら探したってムダょ。私達がすり替えちゃったンだから」

「まぁ今回はな。だけど、危機一髪だった」


心配げなミユリさん。こんな時だが萌えw


「ごめんなさい、テリィ様」

「ヤメて。姉様のせいではないわ。でも、何者かが目の前まで迫って来てる。ココは、逃げるしかないわ」

「嫌ょエアリ。先にコッチが奴らの尻尾をつかんでやりましょ?」


気を吐くマリレ。彼女は1945年の陥落寸前のベルリンからタイムマシンで逃げて来た"時間(タイム)ナヂス"だ。


「コッチから敵に近づくナンて危険過ぎるわ」

「自分の命を守るためには先ず敵を知らなきゃ」

「どーする?テリィたん」


メイド達の視線が僕に集まる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夜の地下アイドル通り。道端に停車中のユニバーサルキャリアに駆け寄るのはメイド姿の2名の女子。


キャリアのドライバーズシートはトポラだ。


「ご苦労様。何か掴めた?」

「ERの血液検査の結果は異常ナシだったわ。恐らく手下のメイド達が何かをしたのね」

「手下のメイド達?」


怪訝な顔のトポラ。


「正確には、メイドが3人、ミニスカポリスが1人、ヲタクが1人。ICUの界隈を出たり入ったりしていたわ」

「全部で5人?」

「メイドとヲタクはともかく…ミニスカポリスって誰ょ?初登場ナンだけど?」


双子メイドも頭をヒネる。


「きっと、ヲタクの元カノの1人ね。きっとターゲットの血液を元カノのとすり替えたんだわ…しかし、どーして次から次へと元カノが出て来るの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ランチタイムのパーツ通り。チープなパラソルの日影を求め、インバウンドが席取り合戦を展開中だ。


「何だょ?俺を偵察に来たのか?アンタ、テリィの元カノの1人だろ?…しかし、いったい奴には何人元カノがいるんだ?」

「御挨拶ね。私、ランチを食べに来ただけょ」

「どーせミユリに頼まれて、彼女の秘密を誰かにゲロってナイかを探りに来たんだろ?」


マチガイダのチリドッグが入ってる紙袋を開ける、首都高HPのリルラ。彼女はミニスカポリスのコス。


相手はミユリさんの池袋時代のTO(トップヲタク)カレル。


「違うわ。他にインバウンドのいないパラソルが見当たらなかっただけょ…待って。秘密をゲロるって何よ?」

「フン。ミユリもアンタを寄越すとはな。スピアならまだしも、元カノとしては2軍だろ?元カノ会に戻ってミユリに伝えてくれ。もうウソはタクサンだってね。ミユリは変わった。昔に比べたら、今じゃまるで…」

「まるで別人?」


何とシンクロしてしまうリルラw


「え?そう、その通りさ。ん?今度は陽動作戦か?だが、そんな手には引っかからナイぞ。アンタが、ミユリの秘密を知らないハズがナイ。STOPサギ被害。俺は騙されない」


立ち上がって歩き去るカレル。溜め息をついて紙袋を開けるリルラ。ソレを屋上から見ているエアリ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


メイド服のミユリさんと腕を組んで、中央通りを歩いて逝く。しかし、コレはデートではない。特典お出掛け券を惜しげもなく使用しての作戦中なのだ。


「ミユリさん、9時の方向。あのメイドだ」

「いくらアキバがメイドだらけと言っても双子で尾行すれば目立ちますね」

「僕の話にウケたフリして笑ってくれ…なう」


アイス片手に突然大きな声で笑い出すミユリさん。


「もぉテリィ様ったら。いやん」

「その調子だ。尾行に気づいてないフリをして」

「上手く逝くでしょうか」


僕は僕でドサクサ紛れにミユリさんの肩を抱く。


「敵の正体を掴むには、これしかないンだ」


双子メイドが尾行して来る。良く見ると笑顔を振りまきチラシとか配ってる。なかなか芸が細かいなw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


パーツ通りの"タイムマシンセンター"。アキバのβ級観光スポットとしてインバウンドにも人気だ。

ハデな外観をバックに自撮りするインバウンドを尻目にミユリさんの肩を抱いたママ、顔パスで入館。


「…タイムマシンは実在します。コレは38年間にわたる研究の末、私の出した結論です」


館長のアナウンスが流れる中、バルーンを持って走る子供、コスプレしたインバウンド…大盛況だ。


「食いついた。双子メイドも入館スルぞ」

「作戦通りですね」

「ミユリさん、コッチだ」


双子メイドはサングラスをかける。変装のつもり?


「…つまり、良く噂になるUFOはタイムマシンのコトなのです。どこかに必ず真実があるハズです。私達は調査を続けます。いつの日か、政府がタイムマシンの存在を認め、証拠となるデータを公表スル、その日まで…」


クロークに隠れた僕達をロストして、走り去る双子メイド。僕とミユリさんは声を殺しうなずき合う。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"タイムマシンセンター"で僕達をロストした双子メイドは、前の通りに飛び出して、周囲を見回す。


「出て来たわ。双子のメイド」

「あの2人?マジ?」

「他にいる?」


道端に停めたサハリアーナでスピアとマリレはヒソヒソと言葉を交わす。同じメイド相手に容赦ナイw


「だって、全然アブナイ感じがしないンだモン」

「マジでルックス的にがっくり来たわ」

「確かにスパイって感じZEROカモ」


散々な評価とは露知らず、パーツ通りを横切って、黒いキューベルワーゲンに乗り込む双子のメイド。


一方、サハリアーナの後部座席にはエアリ。


「他に仲間はいないみたいだわ。ターゲットはあの2人だけよ」

「じゃ運ちゃん、よろしくね。前の車をつけて。バレないようにお願い」

「尾行なら任せてよ。貴女達、私を誰だと思ってるの?」


スピアは黒いサングラスをかけ勢いよくアクセルを踏み込む…何とサハリアーナはバックしてしまうw


「バックしてから発進する人、初めて見たわ」

「思い切り目立ってルンですけど」

「大丈夫。発車オーライ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田佐久間河岸。神田リバー沿いのラブホ街。


「ねぇ!一体いつまでココで待ってれば良いの?」

「私とのデートだと思えば?」

「え。良いの?」


見つめ合う百合なマリレ&スピア。後部座席でウンザリするエアリ。サングラスをズラして上目遣い。


「もう嫌!私の前でイチャイチャするのやめてくれる?」

「あの2人、永遠に出て来ないカモ」

「ハズレ。伏せて!」


モーテルから、双子メイド運転の黒いキューベルが飛び出す。サハリアーナの目と鼻の先を走り去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黄昏が電気街を染めて逝く頃、僕はお出掛け。


「テリィ様。夕ごはんを召し上がっていかないのですか?ブルームーンバーガーに土星リング、水星シェイクがお勧めですが」

「そりゃ素敵だな。でも、今日は早く寝るよ。もうすぐ軌道シフトだし」

「あんなに大変な事故に遭った後ですものね。私、未だお礼も申し上げてませんでした」


元カノの話を出すチャンス。


「実は、全部リルラのおかげナンだ。彼女は僕が困った時にはいつも助けてくれルンだが…今度、お礼を逝っても良いかな?」

「…テリィ様。大変申し訳ありませんが、彼女に私達の秘密を語るワケには参りません」

「やっぱり?」


瞬時に鉄壁の防御を固めるミユリさん。さすがはスーパーヒロインだ。並の腐女子とは瞬発力が違う。


「テリィ様。何とかゴマカしてください」

「ウソをついて?」

「リルラさんは、私の池袋時代の元TO(トップヲタク)カレルとも何か話していたそうです」


元カノのネガティヴ情報を集めてる?怖いなw


「しかし、ミユリさん。リルラはミユリさんの命の恩人ナンだぜ?」

「テリィ様。元カノにウソをつくのは、とてもお辛いとは思いますが…」

「ミユリさん。もうウソならついてるさ。リルラにはドラッグのせいだと言ってある」


微かに驚きの表情を浮かべるミユリさん。


「ドラッグ…彼女は信じましたか?フェンタミン系の新アヘン戦争の余波とでも…」

「まさか。リルラはウソだとわかってる。だから、何も語らズに帰ったよ。多分怒ってる」

「テリィ様。私のせいで…ごめんなさい」


げ、マズい。逝い過ぎたかなw


「ミユリさん達は、いつもこんな辛い思いをしながら生きて来たんだね」

「でも、今は…テリィ様が御一緒です」

「アキバのヲタク全員が一緒さ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「マリレ。なんで私が見張りなの?」


神田リバー沿いの白いホテル"モーテル神田悪魔町"104号室の前で子供みたいに口を尖らすスピア。


「スピア、お願い。黙って見張っててよ」

「エアリにやらせれば?」

「エアリはサハリアーナで見張ってるわ」


マリレが鍵に掌をかざすとアッサリ扉は開く。


「そうだ!わかったわ。私を信用できないワケね?ねぇそーでしょ?」


マリレはスピアの手首をつかみ部屋に連れ込む。


「ココまで来て騒がないで。貴女は、黙ってそこで見張ってて」

「マリレ。貴女が私を連れ込むの、コレで2度目だったわょね?」

「人聞きの悪いコト言わないで」


無視して家探しを始めるマリレ。


「ねぇそれで何を探すワケ?」

「双子メイドの身元がわかるモノに決まってるでしょ?貴女も探してょ」

「バッグに名札とかついてない?」


マリレはクローゼットの上にあるバッグを見る。名札はない。

クローゼットの服を漁り終えて、バスルームに向かうマリレ。


「確かに洗面用具には個性が出るけど…私だったら先ずベッドサイドを探してみるわ。何か思いつきのメモとか残してるカモしれないでしょ」

「お願い。黙って見張ってて」

「ねぇ優秀な軍事探偵さん。ベビーシッターの経験者なら何処を探すと思う?ずばり、ゴミ箱の中よ。真実は全てゴミ箱の中にあるの」


うるさいなとは思いながらも、半分なるほどと腹落ちしてゴミ箱を漁るマリレ。たちまち…大発見だ。


「双子の片割れの名前よ!」


くしゃくしゃのメモを手に凱歌をあげるマリレ。


「それ苗字なの?」

「そんなこと知らないわ」

「もっと探してよ」


有頂天のマリアをたしなめるスピア。いつもとは逆パターンだ。


「ねえ、またあったわ!今度は電話番号よ!」


2つに破けた紙をつなぎ合わせるマリレ。


「これは秋葉原の番号だわ」


マリレから紙片を受け取るや、何の躊躇いもなく、ベッドサイドの館内電話から外線にかけるスピア。


「待って!貴女、何をスルつもり?」

「誰の番号なのか確かめなきゃ」

「ちょっと!」


呼び出し音。1つの受話器に2つの耳。


「はい。秋葉原メイド協会トポラです…もしもし?」


慌ててスマホを切るスピア。


「トポラ…ねぇただのメイド協会のカウンセラーが双子のメイドに私達の追跡なんかさせる?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。トポラはリルラに声をかける。


「首都高HP(ハイウェイポリス)のリルラさん。コチラは空いているかしら?」


リルラは、パーツ通りのパラソルの下で餡饅頭とコーヒーでランチしてる。

背後から"タイムマシンセンター"のマグカップ片手に声をかけるトポラ。


「え。あぁどうぞ。メイド協会の方でしたっけ?」


慌ててテーブルの上を片付けるリルラ。その隙に彼女のコーヒーに何かを入れるトポラ。何者ナンだ?


「良い知らせがアルのょ。貴女、乗り物ヲタクでしょ?ステルス爆撃機B2.5のフライトシミュレータ特別体験コースに参加できるわ。協会枠だから、当日はメイド服を着てもらうけど」

「マジ?素晴らしいわ!何でも着ます!」

「おめでとう、リルラ。乗り物ヲタクの夢がかなったわね。私もウレしいわ」


コーヒーカップで乾杯だ。


「良いコトをすれば必ず報われるってコトね。ミユリさんにしてあげたコト、私も聞いて感激しちゃったわ」


コーヒーを吹き出し、ムセるリルラ。


「何を?ゴホッゴハッゲボッ!」

「だって、貴女は話を聞くや、直ちに外神田ERに駆けつけ、ヲ見舞いに行ってあげたんでしょ?」

「どうしてそれを?」


リルラは瞬時に警戒モードだ。


「コレもメイド協会のカウンセラーの仕事なの。事故のケアをしてるワケ」

「まぁ彼女がちょっと心配だったから。でも、これって普通のコトでしょ?」

「そんな謙遜しないで。誰にでも出来るコトじゃないわ。こーゆー時こそ、誰が使い易い元カノ、じゃなかった、真のヲタ友かがワカル。貴女がしたコトは立派だわ。私もミユリさんのコトが心配なの。彼女に関して、何か知ってるコトがアルなら…」


突然、話に割り込む…げっ!ミユリさん本人?


「私なら大丈夫です。もうすっかり元気になったし、今日も元気にメイド長やってますから」


ミユリさんは、上から目線でトポラを見下ろす。直ちに立ち上がって、視線の高さを合わせるトポラ。


ミユリさんは念推し。


「ねぇリルラさん。心配はナイわょね?」

「え。まぁそーね。そーカモ(B2.5のフライトシミュレータはどうなっちゃうのかしらw)」

「ミユリさん。貴女は事故に遭ったワケだけど、貴女自身は大丈夫なの?」


メイド服の(つるペタな)胸を張るミユリさん。


「もちろんです」

「そう。良かったわね」

「良かったわ」


すると、トポラはかがみ込んで、リルラに耳打ちスル。胸の谷間が露わになりミユリさんを挑発スル。


「後で私のオフィスで話を聞かせて。もう少し話したいの。じゃ後でね」


リルラの肩を叩いて歩き去る。目で追うリルラ。その視線を遮るようにして、正面に座るミユリさん。


「リルラさん!」


ソソクサと席を立とうとするリルラ。


「待って!」

「ハッキリ言って、貴女とはもうこれ以上話したくないわ。精神衛生上良くナイから」

「ねぇ私だって悪いとは思っているの」


振り向きザマに怒りの視線をぶつけるリルラ。


「ソレはどーも。でも、今さら何?」

「お願いだから待ってよ。確認させて。貴女、誰にも話してないわよね?事故に遭ったのは、あのドラッグのせいだって…」

「貴女、そーやって何人に口止めしてるの?私やカレルまで巻き添えにして」


鳩が豆鉄砲を食った顔になるミユリさん。


「カレル?カレルってどーゆーコト?」

「え。だって、彼も知ってルンでしょ?元とは言え貴女のTO(トップヲタク)じゃナイ。こんなコト、いつまで隠し通せると思ってるの?いつかみんなにバレて…あ。あら?あらら…」

「リルラさん!」


突然鼻血を噴くリルラ。慌てて上を向くw


「ちょっち見せて。手当てしなきゃ!」

「ほっといて!鼻血の手当てぐらい自分で出来るわ。お願いだから、もうほっといて!」

「待って!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


skylarkを歌いながら、チアガールがトイレに入って来ると…上を向いて鼻血を止めているリルラ。


「何、鼻血なんか噴いてんの?ってか、貴女。マジでミニスカポリスなの?」

「まぁね。ちょっと興奮するコトがあって」

「お大事に」


個室に消えるチアガール。鏡を見ながら深く溜め息をつくリルラ。因みにコスプレはミニスカポリス。


「最低だわ」


鼻血のついたティッシュをゴミ箱に捨てトイレから出るリルラ。入れ違いにトイレに入るトポラ。ビニ手でティッシュを摘むとビニール袋に回収スル。


第4章 clash down 元カノ vs 今カノ


今、御屋敷(コンセプトカフェ)は世界的ヒットとなった怪獣SF映画"メカゴジラ-2.5"のコンセプトカフェとなっている。


「何しろ情報って、こーゆー時はゴミ箱を漁るに限るワケ。ソレがスパイの常套手段なのょ」


得意げにミユリさんに語るスピア。世界中から推し寄せるインバウンドで混雑中メイド同士の立ち話。


「で、ゴミ箱を漁るべきだとヒラメいたのょ」


コッチはボックス席でエアリに語るマリレだ。


「スピアに言ってやったのょ。洗面用具なんかよりゴミ箱を見て。ベビーシッターやったコトないの?って。そしたら何を見つけたと思う?」


電話番号の描かれた2枚のメモを見せるマリレ。


「で、右往左往してるスピアを尻目に、またまた私がヒラメいてしまったワケ。ソレが誰の番号かを確かめるには、ダイアルするのが1番だってね!」


もちろん、スピアも負けてない。


「そこで私が機転を効かせて電話をかけたワケょ。マリレったらボーっと座ってるだけ。マジ、アレでもホントにスーパーヒロインなのかしら?」


一方、そのスーパーヒロインも絶好調w


「うるさく腐女子のスピアがまとわりついてきて、肝心の時に良く聞こえなかったけど…私は直ぐにわかったわ」


もったいつけて水を1口飲むスーパーヒロイン。


「あの声は確かに…」


ギャレーとボックス席でマリレとスピアは同時に叫ぶ。コレは…量子もつれか?単に仲良しな百合か?


「(メイド協会の)トポラょ!」


コップでテーブルを叩くマリレ。


「何がメイド協会の公式カウンセラーよ。全部ウソも良いトコロょ!」

「トンだ牝狐だったってワケ!」

「マジ?」


最後は僕とミユリさんが異口同音だ。コレも量子もつれ…ではなくて、TOと推しの運命共同体的な…


関係者が全員ボックス席に集まる。


「トポラ。マジあの名前から怪しいと思ってた」

「でも、ソレがマジならコレは非常事態だわ」

「"奴等"は、一体どこまで知ってるのかな」


メイド達を前に腕を組む。大勢のメイドに囲まれて傍目にはお誕生日の集合チェキ状態だ。えっへん←


「誰がトポラや双子メイドを秋葉原に呼んだの?」

「テリィ様。そー言えば、さっきトポラがリルラさんから何か聞き出そうとしてました」

「…リルラなら大丈夫さ。彼女はホントのコトは何も知らないから」


そう逝いながら僕の胸に鈍い痛み。


「リルラには、全て合成ドラッグ(フェルタミン)だと言い訳をしたから」

「そうなの。さすがテリィたん。元カノをダマすのは朝飯前ね」

「マリレ、何てコトを…テリィ様に謝って!今すぐ!」


ミユリさんに一喝され、たちまち顔面蒼白になるマリレ。スーパーヒロインの血が蒼いってホントだw


「とにかく!油断は禁物。ワレワレが絶体絶命であるコトに変わりはナイな」


役に立たない僕のまとめw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ノックしてオフィスに入るリルラ。オフィスの主、トポラはデスクで書類を見ている。顔も上げない。


「トポラ。話って何?」

「ドアを閉めてくれない?…座って」

「コレから夜勤なの。手短にお願い出来る?」


着席しながら念を推すリルラ。


「知ってるわ。貴女のコトは全て知ってるのよ」

「…全てって言うと?」

「外神田ERでのミユリの血液検査の件ょ。そして、貴女がナゼそんなコトをしたのかも知ってる。その理由もね。貴女、大変な問題に巻き込まれたわね」


リルラは黙っている。慎重に間合いをとる。


「でも、私がついてるわ。私の仲間もきっと貴女の力になれると思う」

「仲間?貴女は組織で動いてるの?」

「まぁね。でも、大丈夫。警察関係ではナイわ。この件は、大統領官邸が絡んでる。秋葉原特別区(D.A.)のね…私は、貴女の経歴に傷がつかないようにしてあげる。つまり、貴女を守ってあげたいの」


思わず敬語になるリルラ。


「守るって何からですか?」

「貴女、テリィたんとダラダラ付き合ってると危険よ。あのミユリというメイドともね…知ってるコトをココに描き出してちょうだい。知ってるコト全部ょ」

「私に今、ココで自署供述をしろと?」


トポラが差し出す紙と鉛筆を凝視するリルラ。


「貴女の決心がつくまで待つわ。一度よく考えてみて。テリィたんが、そして彼の今カノのミユリが、貴女にとってマジで庇う価値がアル相手なのかどうか。良く考えて」

「貴女の仲間って誰なの?」

「だから、特別区(D.A.)の大統領官邸筋ょ。貴女の上司には想像もつかないような高位の方と繋がってるわ」


席を立ち、オフィスから出て逝くリルラ。オフィスを出る直前に振り向き、ゆっくり爆弾発言をスル。


「念のために言っておくけど…今の大統領も元カノだから。テリィたんの」


トポラの目がテンw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


アキバのヲタクの交差点"マチガイダ・サンドウィッチズ"。ベンチシートで溜め息をつくリルラ。


「大丈夫?」


声をかけるミユリさん。休憩中らしい。


「最悪だわ」

「話があるンだけど?」

「どんな?」


2人の間を疑問符が行き交う。


「貴女が私を助けてくれたのね」

「私が貴女を助けたって…元カノが今カノの命を救うのは当然だわ。でも、ねぇアレは一体どーゆーコトなの?おかげで私はボロボロなのょ」

「マジで悪かったと思ってるわ」


向き合うメイドとミニスカポリス。


「一昨日、病院で血液検査のサンプルを取り替えたコトは誰にも喋るなと貴女は言った。でも、残念だけど手遅れょ。彼女は全てを知っていたわ」

「彼女って?」

「メイド協会の公式カウンセラーさま」


トポラだ。ミユリさんは息を呑む。


「話したの?」

「いいえ。ただ供述書を出せと迫られた」

「ソレで…描いたの?」


ミユリさん、突っ込む。


「ヤメて。私は、痩せても枯れてもテリィたんの元カノょ。彼の推しを売るコトなんか出来ないわ。でもね。マジで供述書を描いたかどうかを教えてあげる義理もナイって思ってる」

「…私は貴女を守りたいの」

「トポラも同じコトを言ってたわ」


立ち上がるリルラ。振り向かズ歩き去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミユリさんのブログ。


"ほんの一瞬の出来事が全てを変えてしまう。首都高のたった1台の逆走車が、物事を根本から揺るがすコトになるなんて。出来るコトなら、運命の流れを変えたい。悪いコトが悪い方向へと進むコトを食い止めたい。そのための何かが起きれば良いのに"


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミニスカポリスの御帰宅だ。真っ直ぐにカウンター席にやって来る。メイド長自らのお給仕。


「貴女がメイド長になった頃、ココには良く御帰宅したけど、全て遠い昔の話って気がスルわ」

「私達、テリィ様の色んなお話しをしたわね…そして、私は困った時は、いつも貴女達元カノさん達を頼ってきた」

「昔の話ね」


一言で片付けるリルラ。黒のミニスカポリス服。


「リルラ。貴女が外神田ERで私のためにしてくれたコトは、私達"覚醒"したスーパーヒロインにとっては、とても大事なコトだったの」

「そう」

「そうなの。今回もそう。こんな無茶なコトを頼めるのは、やっぱりテリィ様の元カノ以外にいない。勝手なのは良くわかってる。事情は話せない。でも、何も聞かずに私を信用して欲しいの」


鼻で笑うミニスカポリス。


「理由を話すコトは出来ない?全部テリィたんのためで推し通すつもりなの?」

「いいえ。コレは、貴女と私だけの問題ょ。前にもお話ししたわょね?複雑なのって」

「…いつも貴女は複雑だと言う。でも、私にとっては単純な話なの。ソレがわからない?」


リルラも引かない。火花が散るような会話だ。


「リルラ。もしも貴女が信じる相手を間違えたら、とても恐ろしいコトが起きるわ。ソレは、もしかしたら人類の進化に関わるコトかもしれない。テリィ様の推しと元カノのみなさんの間に存在スル友情を大切に思うなら、私のコトを信じて。神田明神に誓ってコレだけは逝える。私は、間違ったコトは何もしてないわ」


深く息を吸い、お出掛けするリルラ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田リバーの光る川面を見下ろすメイド協会のトポラのオフィス。ノックの音。リルラが入って来る。


「トポラさん。色々考えたんですけど、私、やっぱり私はともかく、ミユリさんのコトがとても心配なのです」

「そーなの?」

「YES。だから、つまりもし私が貴女の言う通りにしたら、ミユリさんはどうなるのかしら。大統領官邸?とやらは、ミユリさんに何をスルのかしら」


"覚醒"したスーパーヒロインに、政府は何をスルのか。いや、人類はどう向き合うつもりなのか。


「まぁ事情聴取とカラダに異常がないか検査をスル予定だわ。あくまで、医学的な見地からね」

「つまり…警察沙汰にはしないのね」

「しないわ。貴女の経歴にも決して傷はつかない。約束スル」


微笑むトポラ。溜め息つくリルラ。


「でも、ドラックが絡んでるのに?」

「ドラッグ?」

「YES。ドラッグの話でしょ?新アヘン戦争なのょね?フェンタミン絡みの」


呆気に取られるトポラ。


「と、とにかく…外神田ERであったコトをココに描いて。ソレから…」


紙とペンを差し出すトポラ。ソコにノックの音。千客万来だ。今度は…何とミユリさんが入って来る。


「何か用なの?」

「協会のカウンセラーに相談がアルの。2人だけで話せますか?大事な話ナンですけど…」

「え。リルラ、ちょっと失礼スルわ。すぐ戻るから今言ったコトを描き始めててね」


後手にドアを閉めオフィスを出て逝くトポラ。残されたリルラは、紙と鉛筆を前にして溜め息をつく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


リルラが話し出す前にトポラを外へと引っ張り出すミユリさん。2人はメイド服だ。だって、ココは…


「ミユリさん、大事な話って?」

「リルラさんが何を言ったか知りませんが、その話をお聞きになる前にコレだけは聞いてもらいたくて」

「あら、何かしら?」


真正面からトポラを見据えて話すミユリさん。


「リルラさんって、テリィ様の元カノ達の中でも特に変なんです。突然ワケのワカラナイ言葉を口走ったりスルの。まるで、何かに取り憑かれたみたい。どーやらテリィ様と私が推しとヲタの関係になったので、彼女を傷つけてしまったのカモしれません。あの、彼女ですが、メイド協会公式カウンセラーの

貴女に何か変なコトを話しませんでしたか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その時。リアルタイムでオフィスの中では、リルラはトポラのデスクに座って彼女のPCの操作を開始w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ミユリさん、ゴメンね。カウンセリングの内容は他の人には話せないの。わかるでしょ?」

「モチロンです。モチロン、ソレはとても良くワカルのですが、でも、私は心配ナンです。リルラさんが、また何かヲタクを中傷するようなコトを逝い出すのではナイかと」

「そんなコトないわ。ねぇリルラさんのやるコトをもっと信じてあげましょうょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


requesting online Internet service

dialing…

connecting…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「トポラさん、今の彼女は普通の状態ではナイのです。ソレをわかって」

「とにかく!彼女の意見も聞いてあげなきゃ」

「待って。だから…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


create new password…

new password accepted


「よっしゃ!」


requesting E-mail received

mailbox is empty…


「神田明神も照覧あれ!ダメなの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ミユリさん。じゃ私はコレで」


シビレを切らしキビスを返すトポラ。


「待ってください。ちょっち、トポラさん、もう少し話を聞いてください!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


requesting E-mail sent archives

processing de-request…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


フト胸騒ぎを覚え、ミユリさんから視線を逸らすとオフィスの扉を開く。イスから飛び上がるリルラ。


ツカツカとリルラに詰め寄る。だが、トポラが口を開くより前にリルラがクルリとPCを向け逝い放つ。


「メイド協会のカウンセラーさん。コレは何?」


PC画面には"南秋葉原条約機構(SATO)"のロゴとイニシャル。仮面を暴かれて、呆然と立ちすくむトポラ。


「SATO?アキバの地下でスーパーヒロイン狩りをしていた謎の組織って…SATOだったの?」

「…こんなコトしたって、スーパーヒロインは守れないわよ。貴女達は"覚醒"した者達が人類(パンピー)にとって、どんなに危険な存在なのか、まるでわかってナイわ」

「SATOはアキバで何をしてたの?トポラさん、貴女はSATOのエージェントだったの?」


リルラは必死に問い掛ける。が、親しみの仮面を脱ぎ捨て完全に笑顔を消したトポラは氷の声で語る。


「私の正体を暴いても何も解決しないわ。私は、味方だった。他のエージェント相手では、スーパーヒロインがどう扱われるか保証出来ナイわ。せいぜいくれぐれも無茶はしないコトね」


PCを入れたバックを肩に、振り返らズにオフィスからスタスタ出て逝くトポラ。呆然と見送る2人。


「…ミユリさん。非常事態ょ。今度こそ隠さずに説明して。何で貴女はSATOに狙われているの?今、教えてくれないと、テリィたんの推しと元カノの友情もコレまでょ」

「リルラ…ソンなコト、逝わないで」

「そんなに元カノを信じられないの?私はマジょ。真実を語れないのなら、貴女を出禁にします。私、いいえ、テリィたんの元カノ全員の人生から」


目を伏せ、しかし、決然と逝い放つミユリさん。


「逝えないわ。ごめんなさい」


すると、ミユリさんを避けるようにして、無言で立ち去るリルラ。ミユリさんは、唇を噛み立ち竦む。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"敵スパイの正体"をテーマに、やっと萌え始めたミレニアムな頃の秋葉原を舞台に、主人公らの青春群像を描いてみました。当時のヲタク風俗などを楽しく思い出しながら描き進めました。


さらに、ジュブナイルに必須のボーイミーツガールな要素もストーリーに織り込むコトも意識しています。当時のアキバで、自分もこんな青春?を送ってみたかったな、との憧憬も覚えながら…


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかり世界的観光地となり、急速に"地下度"が低下してる秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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