まっしろけ
「…ん?夢か? 」
頭がぼんやりとする中、一人の学生は瞼を開けた。夕焼けの光を浴びて淡いオレンジ色に染まる車内、窓の外では見覚えのない風景が流れて行く。
バスの最後部座席の窓ガラスに映る自分の姿を確認するとようやく現実に戻ってきた気分だ。
だが、ずっしりとした嫌な違和感が胸を締め付けてくる。
夢を見ていたことは覚えている。
ただ、それがどんな夢なのかどうしても思い出せない。何か、酷く恐ろしい夢だったという気はするが、具体的に何が起こったのかが思い出せないのだ。
ぼんやりと考え込んでいる間に、バスの車内に響くアナウンスが耳に届く。
『次は「真白」。次は「真白」。終点です』
その言葉を聞いて、学生は慌てて座席から立ち上がり、急いで「止まります」のボタンを押した。重いリュックを背負って少し乱暴に運転席横のICカードリーダーにカードをかざして支払いを済ませると、バスのステップを降りた。
次の瞬間―――。
学生の足が地に触れた瞬間、彼の目の前で広がったのは、信じがたい光景だった。
「え?」
その場に立ち尽くし、呆然と周りを見渡す。バスは消えていた。バス停も、道路も、木々も、家々も、何もかもが消え去り、彼を取り囲むのは、ただ真っ白な空間だけだった。空でも、雲でもない。ただ『白』としか言いようがない広大な無の空間が、果てしなく広がっている。
「どうなってんだよ……!」
焦りと恐怖が押し寄せ、思わず学生はスマートフォンを取り出す。だが、真っ白になっている画面は反応しない。
強制再起動を試みるも、真っ白な画面が変わることはなかった。
「ふざけんな…何なんだよこれ……! 」
混乱に駆られた学生は、ひたすら走り出した。どれだけ走っても、足元から消えることのない真っ白な世界。景色は一切変わらず、音も匂いも何ひとつない。ただ無機質な白い空間が永遠に続くのみ。
やがて足が重くなり、息が切れた。体力の限界を感じた彼は、ゆっくりと歩きながらリュックからペットボトルを取り出し、一息つく。冷たい水が喉を通り抜けると、ふと、恐怖より不安が心に広がった。
「どうやったらここを出られるんだ………」
???時日後
時計もなければ、時間を測る基準もない。しかし、学生にとって数日は経過したように感じられた。ペットボトルの水は尽き、歩く体力すら底を尽きかけている。空腹が胃を締め付け、頭の中で『食べ物』と言う言葉が繰り返される。
「食い物…」
自分のリュックを漁るが期待するようなものは見つからない。数枚のプリントと教科書、筆箱だけが入っている。
食べられるものはなにもない。
――だが、食べなければ死んでしまう。
覚悟を決めた学生は、プリントを引き裂き、口に入れた。インクの苦味とカサカサとした食感が口の中を満たすが、胃が少しでも満たされることを祈りながら噛み締めた。
そして、無意識にポロポロと涙がこぼれ落ちる。
???週間後
真っ白な空間に全裸で痩せ細った学生がいた。
何日経ったのかなんてわからない。真っ白な世界に慣れてしまった自分がいることに気づく。
手持ちのものはもうすでに全て食べ尽くしていた。プリント、教科書、筆箱の鉛筆、消しゴム、リュックの肩紐、靴紐、さらには消化できずに吐き出した吐瀉物すら食い尽くした。
それでも空腹は収まらない。喉の渇きとともに飢えが体を蝕んでいる。
学生はふと、自分の手を見た。骨と皮しかないような痩せ細った手を。
――この指なら、まだ食べられる。
ボロボロの指に目を落とし、ゆっくりと口に運ぶ。歯が指に食い込み、硬い感触と痛みが一瞬脳を揺さぶるが止めることはできなかった。
学生の恐怖や理性など、とうに消え去っていた。
そしてそのまま……
"ミシミシ…"
"バキッ"
"くちゃ…くちゃ…くちゃ…"
???ヵ月後
もう、何も残っていなかった。
髪の毛と右腕と両脚、左の手も消え去ってしまった。
食べ物が尽きた彼は、身体の一部を切り取って食べ続けるしかなかった。
痛みを超越したその先には"虚無"が待っていた。
やがて、学生の目は霞んでいき、息が絶える寸前、学生はその瞼を閉じた――
「…ん? 夢か」
目を覚ました彼は、再びバスの最後部座席に座っていた。何か、嫌な夢を見ていた気がする。しかし、どんな夢だったのかは思い出せない。ただ、気持ちの悪い不安感が胸に残っている。
そんな時、アナウンスが響く。
『次は「真白」。次は「真白」。終点です』
この作品は一部、AIを使用しております。