・第一話:秘密が秘密でなくなる時。
第1話:秘密が秘密でなくなる時
許さねえからな…三嶋…!
ーーーーーーーーー1日前ーーーーーーーーー
〔平日の朝、私は自分の目を疑った。〕
母、井崎喜美と父、井崎達実が怒鳴り合う声でいつもより少し早く目が覚めた。
一体何事なのかとリビングを覗いて、自分の目を疑った。父の頭上に[選挙:票買収]の文字を見つけた。
(なんだよこれ…)
理解が追いつかなかった、理解出来るわけがない。ホログラムか何かか?そんな考えが頭をよぎったが、きっと疲れてるだけなのだと自分に言い聞かせ、とりあえず自室へと戻った。
口論の内容を聞く限り、どうやらアレは母にも見えているらしい。これでは疲れによる幻覚では説明が付かないが、考えるだけ無駄だなんて事は俺にだって分かる。そういう事にしておくのがベストだ。
いつも通りの日常に軌道を戻そうと、制服を着て高校へ向かう。しかし上手く事は運ばないものだ。道行く人々の頭上にも文字が浮かんでいた。
警官に囲まれる中年男性の頭上には『痴漢』、若い女性にも『浮気』なんて様々な文字があった。受け入れがたい事実だが、どうやらその人の秘密が書かれているらしい。
ただ、文字が浮かんでいない人間もチラホラ見かける。その差は一体何かと考えながら電車に乗る。誰もが目に見えて挙動不審だった。
ふと頭にこんな考えが出てきた。
(俺の頭上には何が浮かんでるんだ…?)
もちろん俺にだって秘密の一つや二つ存在している。当たり前だ。
そんなことをぐるぐる考えているうちに駅に着いた。小走りでホームに降り高校へ向かう。
予想していた事だが、クラス中大混乱だった。口喧嘩をしているかつての仲良しカップルや、囲んで問い詰める者など地獄絵図だ。
それを横目に、近くに居た同じ技術研究部で親友の三嶋孝男に話しかけた。
井崎雄大『一体どうなってんだよこれ…。俺の頭の上にも、もしかしてなんか書いてんのか?』
三嶋『いや、分からん(笑)
誰ともまだ何も話してないし。
少なくとも俺とお前にはなんも書いてないよ、ラッキーだったな(笑)』
三嶋はいつも通りヘラヘラと間の抜けた声で返事をしてくれた。
井崎雄大『いや、お前の秘密が見られないからアンラッキーだよ(笑)』
そんな雑談を交わすうちに、共通の友達である高田が息を切らし、汗を吹き出しながら近づいてきた。
高田『おい!!2人ともニュース見たか!!
アイドルの竹中ちゃんに彼氏が居たんだよ!』
俺は一瞬思考が停止した。地元の写真で顔が好みにどストライクだった竹中ちゃんに彼氏だって???
そりゃあ可愛いし彼氏も居るか。なんてなぜか冷静になりながら考えていた。
三嶋『そういえば、今の日本どうなってんだ?』
高田『もう大変だよ!一回見てみろよ!秘密大公開とかがトレンド入りしてるよ!!』
言われる通りにSNSを開くと、この話題で持ちきりだった。どうやら日本全国でこんな事になっているらしい。
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「・図根市一家殺人事件の容疑者"飯坂誠"には『秘密』が浮かんでいないらしい。まさか冤罪?」
「・上多賀報道官:情報を精査し、研究機関による正確な調査の上発表を行う」
「・各地で暴動、死傷者も多発」
「・【速報】米政府が日本からの入国制限を視野に入れると表明」
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井崎雄大『こりゃめちゃくちゃだな…』
三嶋『そうだな(笑)でもちょっと面白いな(笑)』
?《お前ら全員こっちを見るなーーッ!!!》
耳を裂くような叫び声がする方を見ると、数名の教員に囲まれ担任が震えながらナイフを持って暴れている。頭上を見れば[盗撮:窃盗]の文字が浮かんでおり、大体こんな事になっている理由は分かった。
担任『俺はやってない!!!やってないんだ!!!』
そんなことを叫んでいるが、頭上に書いてある文字のせいで説得力のカケラもない。
皆ヒソヒソと悪口や噂話をしている。
そんな中ニヤニヤと三嶋が笑っているのが目に入った。
井崎雄大〔何がそんなに面白いんだよ…〕
三嶋〔アイツ、どっちもやってないよ…(笑)〕
井崎雄大〔なんで分かるんだよ…?〕
三嶋〔俺が付けたからだよ…(笑)〕
一体どういうことだよ…。まさかコイツがこの騒動の原因だとでも言ってんのか…?
だがそう考えると納得できる部分もあった。誰とも話していなかった筈なのに、自分の頭上には秘密が書いてない事を把握していたこともよく考えれば不自然だ。
それに、コイツは空気が読めず俺と高田くらいしか友達が居ないが、技術部で一番頭が冴えるヤツだ。
井崎雄大〔冗談だろお前…!じゃあ、俺の父さんの秘密公開してんのもお前が原因だってか…!?〕
三嶋〔ごめんごめん…(笑)公開内容は変えられても、公開自体取り消す事はできないんだよ…(笑)
それに、全員分弄ってたらキリがないだろ…?(
笑)〕
少しイラついたが、そんな事より脳内が疑問と質問が埋め尽くしていた。
井崎雄大〔第一、どうやって人の秘密なんて読み取ってんだよ…?〕
三嶋〔いい質問だな…(笑)実はな、電子機器通して脳波を読み取ってんだよ…最近のやつって高性能だろ…?(笑)〕
井崎雄大〔サーバーとかどうしてんだよ、金掛かるだろ…?あと気になったけど、頭の上に秘密が出てないヤツはなんなんだ…?〕
三嶋〔サーバーは人の脳みそで代わりを果たさせてるから大して掛かってない…(笑)
秘密が出てないヤツは、秘密だと思ってるものがないんだろ、多分だけど三島市一家殺人事件の容疑者とかも、やってないんじゃなくて罪の意識も隠そうって気も無いだけだ…。〕
こんな感じの事を話しているうちに、三嶋の家にまで着いて行く事になった。担任も捕まって、緊急下校になりタイミングも丁度いい。