発端 その6
「へへへへー。あの車のカップル、滅茶苦茶、びびっていやがってだぜ!」
俺の名は田中珍平、あだ名はチンピラだ!!
俺の趣味は、あおり運転や危険運転をする事。
つい先程も、若いカップルの乗った軽自動車の後ろに、十数キロぴったり張り付いて、煽ってやったぜ。
この俺の愛車、赤いフェラーリでな。
ザマァー見さらせ。
リア充爆発しろっ!!
俺は、一仕事(あおり運転の事)を終えた充実感にひたりながら、国道を40キロオーバーで走行していた。
普段は自宅警備員(ニートの事)をしており、暇を持て余している俺にとって、この狩りの時間は至福のひと時であり、一種のスポーツでもあった。
朝飯を食べてから、すぐに車で出かけ、昼飯はドライブインで済ませて、夕飯前に家に帰るまで、俺はあちこちを車で徘徊し、あおり運転や危険運転を仕掛ける獲物を探していた。
そう、まさしく、俺はハンター。
俺に目を付けられた奴は、運が無いのさ。
まぁ、確かに、色々とヤバい事はあったさ。
子供を跳ねそうになったりな。
あれ?
実際に、跳ねちゃったんだっけ?
まぁ、どうでもいいけど。
そういえば最近、この辺りに子供の幽霊が出るらしい。
赤い車に跳ねられて死んだ女の子の霊で、そのせいか、赤い車を狙って現れるそうだ。
ふんっ、バカバカしい。
幽霊なんているか。
人間は死んだら、それでおしまい。
ジ・エンド。
死人に口無しってやつさ。
だから、生きているうちに好き勝手やるのが、一番かしこいのさ。
俺も、赤いくるまに乗っているが、幽霊なんて気にしない。
でも、これだけ大騒ぎになってるんだ。
何か見たのは、本当なのかも。
俺は推理を働かせた。
「そうだ、誰かが何かのトリックを使って、幽霊がいるように見せてるんだ!ほらっ、バーチャルなんとかってやつだ!ディズニーで見たやつだ!」
俺は誰だか知らないが、こんな悪質な悪戯を仕掛ける奴に対して、心からの義憤を覚えた。
「まったく、少しは人の迷惑を考えろよ」
とにかく、俺は幽霊なんか信じないし、変なトリックに騙されたりもしない。
俺はアクセルを踏み込んで、さらに車のスピードを上げた。
あれっ?
さっきまで快晴だったのに、急に雨が降ってきやがった。
ポツポツと正面のガラスに、雨の水滴が当たる。
俺は、ワイパーのスイッチを入れた。
[続く]