魔術師はいた その8
「うわああぁーっ!!」
慌てて、人形に駆け寄り、地面から拾い上げる鈍太郎。
人形は、風雨にさらされたのか、ボロボロになっていた。
「成仏したんだ」
護法先輩が、静かに言った。
長い時を経て甦った、アルフレッドの魔人形は、今また、元の姿に戻ったのだ。
鈍太郎は、そのボロボロの人形を胸にかき抱き、ギュッと両手で抱きしめた。
彼の目に、涙が溢れる。
「ううっ、頑張った。お前、頑張ったよな」
美湖は、そんな鈍太郎の姿を、悲しみと安堵が入り混じった、複雑な表情で見つめていた。
するとその時、護法先輩が、空を指差して言った。
「あれを、見たまえ」
鈍太郎と美湖が、先輩の指差す方向を見ると、きらめく光の粒子が群れをなして、空に昇って行くのが見えた。
「あれが、幽霊少女の魂だ。今まさに、天へ還ろうとしている」
光の粒子は渦を巻き、螺旋状の帯となって、天へと昇っていく。
夏の日差しの中、公園の敷地内から空を見上げる、三人の少年少女の目に、地上のくびきを離れて天に飛ぶ、幽霊少女の魂の光が、まぶしく映る。
美湖が、思わずつぶやく。
「なんて、きれいなの」
彼女の言葉に、無言でうなずく、護法先輩。
そして、そんな二人の隣では鈍太郎が、腕の中の人形を、しっかと胸にかき抱きながら、空に向かって大声で叫んでいた。
「おーいっ!!!」
彼は何故、叫ぶのだろう。
幽霊少女を、引き留めたかったのだろうか。
いや、違う。
彼は、別れを告げていたのだ。
幽霊少女の、外見と同じくらい美しかった、その魂に。
そして、彼女に伝えたかったのだ。
言葉にできなかった、自分の思いを。
「おーいっ!!!」
喉が張り裂けんばかりに、鈍太郎が叫ぶ。
目に涙を、いっぱいに溜めて。
「おーいっ!!!」
人の魂が、天に帰る時、空は、青く澄み渡るという。
清らかな魂を、自分の元に迎え入れる為に、神がそうするのだどいう。
幽霊少女の魂は、人間のものではなかったけれどー。
地上にいる三人の若者が、万感の思いで見つめる中、空に昇った光の粒子たちは、キラキラと輝いて、やがて蒼穹の青に溶けていった。
[続く]