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発端 その2
私の、初めての記憶。
それはあなたの顔。
あなたは、つぶらな瞳をキラキラと輝かせ、私を見つめていた。
今でも、はっきりと思い出せる、あなたの眩しい笑顔。
それは、私が初めて見た、この世の光。
ベッドに横たわる私に、あなたは毎日会いに来てくれた。
そして、色々な話をしてくれた。
お父さんや、お母さんの事、学校の友達や、好きな先生の事。
私には、何も答える事は、出来なかったけれども。
私たちは、毎日のように会っていたけれど、直接、触れ合う事はなかった。
それは、私の世界とあなたの世界の間は、目に見えない何かで遮られていたから。
でも、あなたは言った。
私とあなたの世界は、もうすぐ一つになるのだと。
お父さんが、約束してくれたのだと。
その日が来れば、私はあなたの胸に抱かれ、その温もりを、直接、感じる事が出来るのだろう。
あなたの体温、あなたの匂い、そして心臓の鼓動。
その日は、もう少しで、やって来る。
あと、もう少しで。
でも、あの赤い車が、やって来る。
そして、血がー。
[続く]