護法先輩、推参 その1
「それから、幽霊少女は毎晩、俺の部屋を訪ねて来るようになったんだ。俺が、あの少女を跳ねた赤い車を、見つけたのかを確かめるために。えっ?どうして、俺の家が判るのかって?俺が、この「呪紋」を付けている限り、どんなに離れていようと、居場所が判るらしい。それに、命だって簡単に奪えるそうだ。俺が学校を休んで、赤い車を捜し始めてから、もう10日以上になるけど、犯人の車は全然見つからないし、そもそも、警察が捜しても見つからないのに、そう簡単に見つかるわけない。あいつ毎晩、俺の部屋に来るんだけど、赤い車を見つけられなかったと言う度に、段々と、不機嫌になっていくのが分かるんだ。どうしよう、美湖。俺、このままだと、近いうちに役立たずだと思われて、あいつに殺される。ううっ、俺、まだ死にたくないよ」
鈍太郎から話を聞いた、次の日の夜。
わたし、鈴木美湖は、護法先輩と共に、鈍太郎の自宅へと向かい、彼の部屋の中にいた。
もちろん、鈍太郎も一緒だ。
わたしと先輩が、こんなに夜遅くに、鈍太郎の部屋を訪ねたのには、もちろん理由がある。
それは毎夜、彼の部屋を訪れるという、幽霊少女と対決するためだ。
相手をよく知らなければ、対処のしようがないとの護法先輩の提案で、とにかく一度、幽霊少女と会ってみる事にしたのだ。
わたしは、すごく怖かったけど。
鈍太郎の話を聞いたのは、昨日の事だが、今日になってわたしは、思い切って学校で、護法先輩に、鈍太郎の事を相談してみたのだ。
鈍太郎の話は、にわかには信じがたいものではあったが、わたしは彼が嘘をついていないことについては、確信があった。
子供の頃からの付き合いだからか、あいつが嘘をつくと大体判るのだ。
それに、左手の甲の、不思議な模様の事もある。
あの紋章は明らかに、何か尋常じゃない力によって、つけられたものだ。
かといって、話の内容が内容である。
親や学校、そして警察に話しても、まともに聞いてはくれないだろうという事は、わたしにもわかっていた。
思い悩んだ挙句、わたしは、オカ研の会長である護法先輩に、助けを求めたのだ。
護法童司先輩は、学校一、いや、おそらくは日本一の秀才であり、我が校の生徒会長。
なおかつ、護法神社という、古い古い格式ある神社の跡取り息子。
そして、先輩以外は、メンバー全員が「幽霊部員」だという、オカルト科学研究会という、おかしな同好会のリーダーでもあった。
[続く]