幽霊との邂逅 その6
俺はその若い刑事に、警察署に無理矢理、連行されたんだ。
自転車とリュックは、没収された。
その上、長い取り調べと説教をくらったあげく、親と学校にも連絡されちまった。
家からは両親が、学校からは、なんと、椎名先生が来やがった。
あいつ、俺の顔を見ると、いきなり親の見ている前で、俺の頭に拳骨を落としやがった。
なにっ、そんなの、当たり前だって?
親父も、そう言ってたよ。
なんやかんやで、やっと家に帰れる様になったのが夕方過ぎで、両親はまだ何か手続きがあるらしく、俺だけ先に、家に帰る事になったんだ。
警察から返してもらった「赤い彗星号」の前カゴに、同じく返却されたリュックを載せ、それを引いて、トボトボと家路につく俺。
両親には、さっさっと家に帰って反省してろと、きつく言われていたけれど、気分が落ち込んでいた俺は、少し寄り道をする事にしたんだ。
ほら、知ってるだろ?
俺らの近所を流れている、川の堤防ー。
俺は、イライラしたりムシャクシャしたり、あの日みたいに気分が落ち込んでいる時は、あの堤防の上に登って、景色を眺めることにしてるんだ。
あの日も俺は、自転車を引っ張って、堤防の上まで登り、時折り散歩する人以外は誰も通らない、その場所に自転車を停め、座り込んだ。
小道となっている堤防の上に、ポツンと座りながら、周囲の景色に目を馳せる俺。
近くで、堤防に植えられた防火林の立木が、風に揺れる音がする。
夕日の差し込む堤防の上から見下ろす川面は、キラキラと輝き、その川を挟んで立つ、反対側の堤防の向こうには、多くの街並みが霞んで見えた。
「遠くへ行きたい」
俺は深い溜息をついて、黄昏の遠景を眺めていた。
その時、俺の頭に、ポツンと水滴が落ちてきた。
空を見上げると、西の方に黒雲が広がっていた。
天気が崩れる前兆だ。
「雨か。本格的に降られる前に帰ろう」
俺は自転車を引いて、家に帰る為、重い腰を上げようとした。
その瞬間、俺は、背中に氷を押し付けられた様な、鋭い冷気を感じた。
それと同時に、背後から、少女の声が聞こえてきたんだ。
「あなた。こんな所で、一体、何してるの?」
俺は、後ろを振り返った。
そして、出会った。
出会ってしまったんだ。
あの、幽霊少女にー。
[続く]