幽霊との邂逅 その5
その後、わたしはチラシ配りを中止した鈍太郎と共に、近くの公園に移動して、そこで改めて彼の話を聞いた。
その内容は、わたしには、にわかには信じられないものだった。
ほら、美湖。
お前が覚えてるかどうか分からないけど、俺が授業中に騒いで、椎名先生に怒られた日があったろ。
そう、俺が廊下に立たされた、あの日。
あの日、初めて俺は、赤い車の少女の話を聞いたんだ。
その正体が、椎名先生の亡くなった娘だと、言われている事も。
俺、その話を聞いた時に、これは椎名先生を見返す、絶好のチャンスだと思ったんだ。
俺が、その幽霊少女の正体を暴けば、椎名先生もみんなも、俺の事を見直すに違いないってー。
って、美湖。
そんな目で、見るなよ。
俺も今では、馬鹿な事をしたって、思ってるんだからー。
幽霊少女が、赤い車を目標にしている事も、俺には好都合だった。
知っての通り、俺の自転車は赤色だからな。
えっ?
自動車と自転車は違うって?
なんだ、知らないのか、美湖?
ほうりつでは、自動車も自転車も、同じ「車」の仲間なんだぜ。
ネットで調べたんだ。
きっと、あの幽霊少女は「赤い色」に引き寄せられていると思ったんだ。
闘牛の牛みたいにな。
だから、そんな目で見るなって!
とにかく俺は、幽霊少女の事件を解決するため、早速、行動を開始したんだ。
ネットの情報で、赤い車の少女が現れる場所と時間帯を調べ、もしも相手が本当の幽霊だった時のために、秘密のアイテムも色々と用意した。
そして、ついに、作戦を決行する日がやって来た。
その日は天気のいい日曜日で、俺は秘密のアイテムを入れたリュックを背負い、自慢の自転車「赤い彗星号」に乗って、幽霊少女が出没するという現場に向かったんだ。
やる気満々な俺は、現場の道路に着くと、乗っている自転車で、その近辺を何度か往復して、幽霊少女を誘い出そうとした。
だけど、幽霊少女は中々、現れてくれない。
しびれを切らした俺は、幽霊少女が、自分の事を恐れているに違いないと思い込み、しまいには自転車で道路を往復しながら、大声で叫んだ。
「幽霊少女出てこーい!!勇者、鈍太郎、ここにあり!!!」
だから、そんな目で俺を見るなっ!!
まぁ、道路を歩いていた人達も、変な目で俺の事を見てたけどな。
そのうち俺は、道路を囲むみたいに建つ「ここより名神高速」という、大きな案内板のあるゲートにたどり着いたんだ。
中を覗くと、「ETC専用」とかなんとかという表示もあった。
「ETC」って、英会話教室のことだろ。
えっ、違う?
俺は、そのまま自転車で、ゲートの中に入ったんだ。
その先には、長い長い道路が伸びていて、通行人は一人もいなかった。
俺は、その整然と舗装された、どこまでも続く長い道路を自転車で走った。
幽霊少女に、呼びかけながら。
「出てこーい、幽霊少女!!エロイムエッサエム!!エロイムエッサエム!!」
そんな俺の隣を、何台かの車が、ものすごいスピードで通り過ぎていった。
んっ?
どうした、美湖。
頭でも痛いのか?
そして、しばらくすると、前方から一台の自動車が、俺の乗る自転車の方へ、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。
サイレンを、響かせながら。
どうやら、パトカーのようだ。
そのパトカーは、俺の自転車の進路を塞ぐ様に停車し、中から一人の若い男が降りて来た。
男は、俺の漕ぐ自転車のすぐ前に立ちはだかると、無理矢理、停車させたあげくに、俺を自転車から引きずり下ろした。
そこからは、地獄だった。
[続く]