幽霊との邂逅 その2
次の瞬間、少女は、先頃まで、彼女が堤防から見つめていた、幹線道路に架かる、巨大な鉄橋の上にいた。
河川敷の堤防から、この鉄橋まで、瞬間移動したのだ。
これも、幽霊である彼女の持っている、超常能力の一つであった。
巨大な鉄骨で造られた、鉄橋の上にチョコンと座り、橋を走行している車の流れを、そこから見下ろす幽霊少女。
先程、目を付けた赤い車は、もうすぐ彼女の眼下を、通過するはずであった。
普通なら、道路にかかる鉄橋の上に、子供が鎮座していれば、大騒ぎになるはずだが、何台もの車が、鉄橋を通過しているにも関わらず、どのドライバーやその同乗者も、誰一人として、彼女の存在に気付く事は無い。
それもまた、彼女の能力。
周囲の人間に、自分の姿を認識させない、特殊スキルであった。
鉄橋の上から、下の道路を次々と走り抜ける車の様子を、じっと見つめる幽霊少女。
やがて、その眼下を、先程見つけた赤い車が、今まさに通り過ぎようとしていた。
幽霊少女が、素早く思考を巡らす。
(赤い車だわ。運転手の年齢や、体型も似ている。もしかしたら、あの車かもしれない。違うかもしれないけどー)
事故を起こした、あの赤い車の運転手の容姿は、彼女の記憶に、しっかりと刻まれている。
車は、赤い色をしているとしか、わからなかったが。
とにかく、今は、わずかな手がかりしかない。
それを頼りに、今はひたすら、捜し続けるしかないのだ。
自分たちの幸せを奪った、あの赤い車の運転手をー。
彼女は、そう心に強く言い聞かせると、今まさに眼下を通り過ぎた、赤い車を追いかける為、座っていた鉄橋から、その身を空中に躍らせる。
走り去る赤い車を追って、夜の空を猛スピードで飛ぶ、幽霊少女。
その姿は、夜の幹線道路の先に広がる、深い闇の向こうへと、瞬く間に消えていった。
やがて、雨が降り始めた。
[続く]