発端 その1
それは、雨の日だった。
僕とパパは、車に乗って、道路を走ってた。
夜の8時くらいだったかな?
僕たちは、前の日から泊まりがけで、ディズニー・ランドに遊びに行ってて、その帰り道だったんだ。
遊び疲れたのか、パパも運転しながら、ちょっと、眠そうだった。
まだ、そんなに遅い時間でもないのに、なぜか道路はすごくすいていて、前や後ろにほかの車の姿はなく、また、反対側から走って来る車と、すれ違うこともなかった。
雨の降りしきる中、延々と続く夜の道路を、僕たちの車だけが、どこまでも走り続けているー。
僕はなぜか、この道路の先に、恐ろしい何かが待っている気がした。
その時だった。
僕たち二人を乗せて走る車の前に、突然、女の子の姿が現れたのはー。
「うわーっ!!」
パパの絶叫と共に、車に急ブレーキがかかった。
ガクン!!
僕とパパの体が、前につんのめる。
僕たちが乗る車は、女の子の立っていた場所を通過し、道路上にタイヤをきしませながら止まった。
女の子を、はねてしまったと思ったのだろう。
パパは、あわてて車から飛び出して、そばに倒れているはずの、少女の姿をさがした。
だけど、車のまわりには誰もおらず、何かをはねた形跡もなかった。
「こ、これは、一体?確かに、まだ小さな女の子が、道路の真ん中にー」
パパは、混乱しているようだった。
「たけし、お前も見たよな?」
パパがそう聞いてきたので、僕はおびえながらも、しっかりとうなずいた。
その時、上の方から声が聞こえた。
「この車じゃない」
僕とパパが、驚いて空を見上げると、そこには雨の降りしきる中、宙に浮かんだ少女の姿があった。
その少女は、黒一色でフリルがついた、ドレスを着ていた。
少しウェーブがかかった黒髪で、すごくきれいな顔立ちをしていたけれど、顔色は血の気がなく、真っ青だった。
そして、その目は、氷のような冷たい光をたたえており、右目の下には、小さな泣きボクロがあった。
僕とパパは、恐怖のあまり、彼女から目をそらすこともできず、抱き合ってふるえていた。
宙に浮かんだ女の子は、そんな僕たちを、冷たい目で見下ろしながらつぶやいた。
「赤い車だけど、この車じゃない」
そして、彼女は消えた。
文字通り、雨の夜空にとけこむように、急に消え失せたのだ。
後に残されたのは、道路の上で、おびえながら抱き合う僕とパパ。
後ろから来た車が、クラクションを鳴らすまで、僕たちは恐怖で、その場から一歩も動くこともできず、ふるえながら抱き合っていた。
[続く]