第8話 人間の魔力は貧弱ゥ!!
「この部屋が執務室。主に書類仕事や迷宮の拡張を行うところだぜ」
「おぉ、それっぽいな」
場所は変わり、執務室。
内装は共有スペースとさほど変わらないが、中央には会議用の横長テーブルと椅子、その奥に執務机が三つ置かれている。
そして、ハルトの目を最も惹いたのは、壁際にある縦長の台座だ
「まずは迷宮の改造だ。ハルト、ここの台座に触れてくれ」
「こ、こうか?」
ネモに手招きされ、ハルトはワクワクしながら台座の上に右手を置いた。表面には、魔法陣が刻印されている。
「今から作るのは侵入者撃退用のフロアだ。作りたい迷宮の形を頭に描いて強く念じてみな。ハルトの魔力で作り変えるからよ」
「おう任せろ! 魔力量には自信があるんだ!」
魔力とは、魔法を行使する為に必要な人体の根源的エネルギーのことだ。戦闘では弱いハルトでも、昔から魔力だけは人並み以上に高かった。
「超エリート冒険者の魔力、とくと見やがれ!!」
溢れんばかりの理想と妄想を詰め込んだ迷宮を、ハルトが念じた直後だった。
「――ッ!!!?」
ドクン、と――
手の平から、何かが抜け落ちた。まるで体内の熱が、濁流の如く根こそぎ放出されたような感覚。
急激に気分が悪くなったハルトは、胃のむかむかに堪え切れず――
「っ、ぐぉ、ェェェェッ!!!!」
「うわっきったね!?」
台座にしがみつきながら、台座横に吐いた。ネモが吐しゃ物の飛沫から跳び退く。
「っはぁ……! な、なんだぁ……? 全身から、急に力がっ……」
「あちゃぁ……こりゃ魔力欠乏症だな」
「え……?」
ネモは断言するや否や、執務机の引き出しから瓶を二本取り出し、ハルトに手渡す。紫色の液体が入ったそれは魔力ポーションだった。
ハルトは栓を抜き、それ等を一息に呷っていく。
「……ぷはぁ! し、死ぬかと思った……」
「すまん、そこまで考えが回らなかった。人間の魔力が、まさかここまで貧弱だとは思わなくてっ……」
「なっ……! 貧弱!? 俺の超エリート魔力がっ……!?」
ハルトは愕然とした。魔力に対する種族間の認識差に。
魔族と人間では、魔力量に大きな差があるとされている。魔族の大抵は膨大な魔力を持って生まれ、人間は魔族の三分の一ほどの魔力しか獲得できない。
「……しょうがない、プラン変更だ。〈ボロモウケ商会〉の作業員を召喚する」
台座周りを綺麗に掃除したネモが、頭を掻きつつ不本意そうに告げる。
「代わりに、ってことか……? さっきより魔力消費は少ない、よな?」
「作業効率は下がるがな。ちょっと待ってろ」
そう言って、懐から薄い金属板を取り出すネモ。その表面を指で触り、耳に当てると独りで喋り始めた。
「あたしだ。迷宮の改造の件で、予備プランを実行に移したいんだが、今動ける者は何人だ――?」
(まさか、小型の魔導通信機か……!? ギルドのはもっと大きかったのに……)
ちなみに、人間界の魔導通信機はリンゴ二つ分の大きさである。
「――よし、良いぞ。魔力を注ぎ込みな」
「なぁ、それ、魔導通信機だよな? 魔力波を利用した……」
「ああ。いずれ、お前にも一つくれてやる。だから早く」
「マジ!? 了解ッ!!!!」
通信を終えたネモに急かされ、ハルトは気合一発で台座に魔力を注入した。すると、床の空きスペースに大きな魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間、様々な容姿の魔族達がこの場に出現していた。
「――ネモ様。作業員計二十名、ただ今到着いたしました」
「すごっ!? 十人以上の空間転移なんか初めて見た……!!」
ハルトが瞠目する中、ネモはハルトの横に並び立つと作業員達を見渡していく。
「〈ボロモウケ商会〉と契約してる作業員諸君、急な呼び掛けに応じてくれて感謝する。こちらは、今回迷宮を運営することになった人間のハルトだ。以後、彼の指示を仰ぐように」
「え?」
「「はい!!」」
驚くハルトの肩に手を乗せ、ネモが颯爽と命令。作業服を着た彼等が、口々に意気込みを言い始める。
「ハルト様! 工事はオレたち任せてくだせぇ!」
「遠慮なさらず、こき使ってくださいねっ」
「お、おぅ……俺は人間のハルトだ。よ、よろしく?」
岩石の魔族や褐色の女魔族、他十数名が、次々とハルトに押し寄りアピールしていく。
その元気と勢いに気圧され及び腰になるも、ハルトはすぐさま腹から声を出した。
「ひ、ひとまずフロアを拡張するか……! じゃあ、俺の指示でどんどん掘り進めてくれっ! あ、あと一応、迷宮の入り口も閉じるか隠すかするように!」
「「はいっ!!」」
(あ、あれぇ……? 魔族って、皆してこんな温厚で優しい種族なわけ……? え?)
魔族に対する認識の崩れに戸惑いつつ、ハルト主導による工事が始まった。
魔界の技術力は世界一ィィィィ……!
話の区切りの都合上、内容短くなってしまいました。その代わり、次話は少し長めです。
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