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第7話 迷宮の運営理由

魔王復活の為に何故迷宮を運営しないといけないのか――

その理由が今、明かされるっ!!!

 




「す、すみませんでしたぁ……!」

「ふぅーっ、ふぅーっ!!」


 冷たい床の上で膝を折り頭を擦り付けたハルトは、怒り心頭のクロエに謝罪した。


「まぁまぁ、クロエもその辺で。ハルトもわざと触った訳じゃないようだし、な?」


 顔面を赤く腫らしたハルトを不憫に思い、ネモがクロエを(なだ)めるが、


「慈悲を与えろと言うのっ!? 私の胸を揉み……あまつさえ、かかっ、『硬い』とか! せ、『洗濯板みたいな』と言い愚弄してきた、この不埒者にっ!!」


 それでも、未だに怒り冷めやらぬようで。自分の胸が薄いことを気にしていることが、見て取れるほどだ。


(別に、揉んだというほどの感触でもなかった気が……表面ゴリッとしてたし)


 今回初めて女の子の胸を揉んだハルト。その割には感動が薄く、つい小声で本音を漏らした。


「ん……? ヒッ!?」


 そして気付いた。怒り狂うクロエの声が全く聞えなかった訳を。


「反省が足りないようねぇ…………ハ・ル・ト?」

「はぁ……馬鹿ハルト」


 ふと顔を上げれば、満面の笑みを浮かべたクロエと呆れるネモがそこには居て。


「ク、クロエ? ちょ……やめ――」

「女の敵ィィィィ!!!!」

「ギャァアアアアアアアッ!?」


 流石に情状酌量の余地はなく、再びタコ殴りの刑が実行されたのだった。



「今回は、わざとじゃないと信じて大目に見てあげる。咽び泣いて喜びなさい?」

「ふ、ふぁい……クロエ様、あひがとぅござひまぁす」


 クロエの寛大な処置に、床に正座して感謝するハルト。


 今回の一件は、〈残虐の魔王〉の恐ろしさを体感する良い機会であった。そう、無理矢理自分を納得させていた。


「よろしい。じゃあ、話を戻すわよ。あなたも座りなさい」

「は、はい」


 クロエに促され、ハルトはビクビクしながら対面の長椅子に腰掛ける。


「人間であるあなたは、当然勇者と〈聖教会〉――その初代教皇は知っているわよね? それと封印のことも」

「もちろん。それが?」

「どうやらこの封印は、私の全魔力を糧に編まれたようなの」


 クロエの深刻そうな表情から、その封印がかなり特殊なものであると解るハルト。


「さっきみたいに一瞬触わるだけなら、魔力制御でどうにかなるのよ。けれど封印を破るには至らない。封印の構築に使われた膨大な魔力が、どうしても必要になるの」

「膨大な、って……それってどれくらい?」

「そうねぇ……一万人の魔族から魔力を吸い上げて、ようやく三割ってところかしら」

「なにそれ恐い!? どんだけ魔力持ってたんだよ!!」


 恐ろしいことを笑顔で口にするクロエに、ハルトは思わずゾッとした。


 人間と魔族では、魔力の差が倍以上あるとされている。それでも必要量に全く届いていないことが、封印の強度さを証明していた。


「ここで活動する分はあたしが提供してるけど、それだけじゃあ何百年掛かるか分かったもんじゃない」


 肩を竦めて、ネモが困ったように言うと、クロエの視線がハルトを射貫いた。


「そこでハルトに頼みたいのが、〝エモトロン〟の収集よ」

「なんだ、それ?」


 その単語は、冒険者であるハルトにも聞き覚えがなかった。無論、元仲間で魔法使いのレシアの口からもだ。


「あらゆる感情を魔力に変換したエネルギーよ。怒りや哀しみ、喜びや楽しみといったね」

「その為の魔導機構は、あたしがもう迷宮内に組み込んでる」

「エモトロン、魔導機構ねぇ……」


 ハルトの真横に座るネモがそう付け足す。ハルトは、ほぅと感嘆の息を吐いた。


「……仕組みはよく分かんないけどさ、本当に俺の力が必要なのか?」

「へぇ……」


 ハルトの見解を聴き、クロエの目は興味深そうに細まり、口角もまた少し吊り上がる。


「どうしてそう思うのかしら?」

「魔物や魔族の部下を使って、適当に人間界で暴れさせれば済む話じゃないか? 動けないなら尚更だ」


 答えつつ、真剣なハルトの頬に汗が伝う。


 御伽噺のように、クロエが主導し人間を虐殺する。そうすれば、魔王に怯えた者達から恐怖や悲しみといった感情を集められるという寸法だ。


「……馬鹿だけど本物の馬鹿じゃない、か」


 その回答は満足のいくものだったらしく、クロエは楽しげに呟いて続けた。


「あなたの考えは正しい。だけどね、私は平和的に復活したいのよ」

「平和的に? 〈残虐の魔王〉なのに、なんで……」


 その二つ名が出た途端、クロエはハルトから目を背け、


「……誰かの死で成り立つ命なんて、こっちから願い下げなのよ」


 嫌悪感に満ちた顔で、そう唾棄した。


 その言葉に、ハルトは驚きを隠せず目を丸くする。


「随分とまた、魔王らしからぬ発言だな……なら俺に誰かを脅せってか?」

「いや……あたし達が必要としてるのは、迷宮を愛するハルトの力だぜ」


 ネモがそう否定すると、ガラス机下の棚板(たないた)から小型黒板とチョークを取り出し、エモトロン収集の仕組みを書き出す。


「平和的に復活したいが、クロエはここから動けない。そこであたし達は、〝()()()()()を運営する〟ことで、宝を狙う侵入者からエモトロンを集めようと考えたんだ――さて、ここで問題だ!」


 仕組みを一通り書き上げると、ネモはハルトに挑戦的笑みを見せた。


「クロエは人間の恐怖で復活する気はありません……この場合の解決方法を述べよ!」


 授業を行う教師のように問題を出され、ハルトはしばし考える。だが、今までの話から答えは自ずと明らかだった。


「……面白い迷宮を作って冒険者を満足させる、か?」

「正解っ! 流石、迷宮好きなだけあるぜ!」


 つまりは、『迷宮に来る冒険者を楽しませることでエモトロンを得よう』という話だった。


 クロエの心情的に、また状況的にも、迷宮運営はまさに理に適った方法といえる。


「だが、面白い迷宮を作ろうにもお金に困ったもんだ」


 ネモが心底残念そうに肩を竦めた後、力強く拳を握り締めた。


「そこであたし達は考えた! お金が無いなら侵入者から巻き上げれば良いと……!!」

「ふっふっふ。成程……読めたぞ! それで迷宮に超詳しい俺なわけだな?」


 仮にも商会を束ねるネモがごろつきのようなことを言い出した。


 そのやり口を聞いた途端、ハルトはニヤけ、この迷宮における自身の役割を理解する、が――


「いや……でも待てよ?」


 説得力のある説明に思わず納得しかけるが、遅れてある疑問が浮上する。


「ネモは人間界で〈アラカセギン商会〉を経営してるじゃないか。そこで稼いだ金は使えないのか?」


 魔族のネモは〝人間のモネイ〟として商会を持っている。それも莫大な利益を生み続ける商会だ。


 そこにハルトは目を付けた。


「あのなぁ、利益や金の出入りを記した帳簿は王都税務署に逐一報告してるんだぜ? 隠蔽して運営の資金にしても良いが、バレたらどう説明すんだよ」

「うぐっ……」


 王都で活動していたハルトもよく耳にしていた。商会の裏金や脱税疑惑の話を。


 税務署の強制調査が行われた結果、商会の財産を没収された上に商会長が投獄されたこともある。


「だいたい、人間界での稼ぎはいざという時の保険でもある。その点、冒険者から巻き上げたお金は報告する義務はないし、装備や魔道具も魔界で売り払える。まさに良い事尽くめ――理解したか、ハルト?」

「…………ば、馬鹿ですみませんでしたぁっ」


 色々とツッコミたいところはあったものの、自らの未熟さを理解させられたハルトは不承不承(ふしょうぶしょう)ながらも反省した。


「――理解して貰えたところで、ハルトには早速迷宮を作ってもらおうかしら」

「はっ!? そうだ迷宮っ!!」


 打ちのめされていたところにクロエの初命令が下され、ハルトは不死鳥の如く元気を取り戻す。


「期待しているわよ、ハルト」

「ッハッハー! 任せろッ、この超エリート冒険者になぁ!」


 クロエの多大なる期待を胸に、ハルトは意気揚々に叫んだ。


 念願の迷宮作りの始まりだ――





各話を細切れにして文字数を少なくしてるけど、間延びしているようにも感じます(泣)


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