第7話 追放者の葛藤
この回想だけは入れたかった。
だから入れた!
「――今日の迷宮は最高だったな!」
「うむ」
「報酬もたっぷりゲットしたしねっ」
半年と一ヶ月ほど前。
冒険者の間では、迷宮探索のみを言えばハルト達のパーティは〝Sランク〟並の実力があると言われていた。
三人でパーティを結成してからは、迷宮関連の依頼は全て完遂。一人の死傷者も出さずに神代の迷宮を踏破する偉業を積み続けている。
そのあまりの実力に、いつからか〈迷宮朋覇〉と呼ばれるようになっていた。
迷宮好きで集まっただけとはいえ、もてはやされること自体ハルト達は嬉しかったし、むしろ三人の誇りだった。
そんなある日。
「ねぇハルト。たまにはアタシ達も罠探し手伝った方が良い?」
迷宮探索を終えて宿屋に戻ると、レシアが言った。
「どうしたんだ急に。はっ!? まさか、俺の楽しみを奪おうと画策をっ……!?」
「違うってば。ここのところハードな探索が続いてるでしょ? ハルトにはいつもパーティの雑務もやってもらってるし、流石に疲れが溜まってるんじゃないかって、ボーマンが」
各々の役割はそれぞれの適正に合わせた分担配置。
ボーマンが前衛で攻守担当。レシアが後方支援。ハルトは罠の看破、その他全てをこなすサポーター的立ち位置だった。
「は? 全然いけるが? だいいち、父さん達の冒険してた頃はこれが普通だったぞ」
「そうは言うが、いつ限界がくるか分からん。せめて戦闘だけでもオレ達に――」
「いやいやいやっ! 好きでやってるんだって!」
「しかし……」
ハルトの熱意に圧されつつ、ボーマンが渋る。
「俺はこのパーティが、お前ら二人が大好きだ。皆で迷宮を存分に楽しむ為なら、なんだってやってやりたい。元々、各々の苦手を補おうと集まったんだし、俺にドーンと任せてくれ」
「…………全く、頑固な奴だ。クサい台詞を平然と吐きおって」
「まぁ、ハルトだしね」
「混じりけ無しの本音だ、仕方ないだろ」
パーティ仲は良好。迷宮と冒険を心から楽しみ、稼ぎが悪い時もひもじい思いを分かち合いながら苦楽を共にしてきた。そんなパーティに綻びなどあろう筈がない。
――皆、そう思い込んでいた。
数日後に起きた、あの痛ましい事件までは…………。
「――先生! ハルトの容体は!?」
ある日、ハルトが大怪我をした。
事が起きたのは、依頼で向かったDランクの迷宮。迷宮初心者でも無理をすれば踏破できる程度のもの。
普段通りなら、怪我はおろか罠の看破に失敗することなど有り得なかった。
「回復魔法で傷口は塞げました。今は安定しています」
「よ、良かった…………」
「罠に嵌ったとのことですが、根本的な原因は他にあるかと」
安堵するレシアに、診療所の医者は汗ばみながら言葉を切る。
「どういうことだ?」
ボーマンが問いただすと、医者はハルトの症状を語った。
原因は極度の疲労から来る高熱だった。罠で負った以外の怪我もなければ、なにかしら病気に罹っているわけでもないと。
「度重なる冒険で、知らず知らずのうちに疲労が溜まっていたんでしょう。睡眠不足に、筋疲労。どうしてこんなになるまで……兆候はいくらでもあった筈ですが」
「え……そんな素振りなんて」
「とにかく今日一日はここで安静です。傷口が安定次第、帰ってもらって構いません。それでは――」
医者は呆れてその場を後にした。
「…………やはり、無理があったようだな」
「あたし達が悪かったのよ……もっと早く気付いてればっ」
「いや。リーダーのオレこそ、ハルトの変化に気付かなくてはならなかった……!」
ボーマンの言葉に、レシアは溜息で返す。
「今日はこの程度で済んだ。だが、このままではいつ命を落としても不思議ではない。あのハルトですらな」
二人の間に静寂が流れる。
未だ目を覚まさないハルト。
ボーマンはしばらく葛藤したのち、レシアにある相談を持ち掛けた。
「いっとき休ませるだけでは根本的解決にはならん。レシア、明日宿にハルトを運んだら、オレと――」
――そして翌日の夕方。
ボーマンとレシアはズタボロの状態で宿に戻った。ハルトに驚かれはしたものの、二人は魔物にやられたと嘘を吐いた。
「まさか、ここまで酷いなんてっ……」
「……ハルトは、よく無傷でこなしていたものだな」
全身アザと傷だらけ。無数の痛みが、引き絞るように二人の心を締め付ける。
「アタシ達……ハルトなしじゃダメダメね」
「…………レシア。オレは覚悟を決めた。オマエはどうだ」
ボーマンの問いに、レシアは唇を引き結ぶ。
「…………アタシも、決めた」
やがて、二人は一つの結論を出した。
「たとえ、ハルトを傷つけることになっても――」
次ノ投稿、明日ノ同時刻ゥ~。




