第5話 真意の行方は
視点変更。ハルト達ー!
「――ブッハハハハ!」
その頃、共有スペースには下品な笑い声が響き渡っていた。
「俺にあれだけ啖呵を切っておきながらこれって……! ブフゥッ、超ウケる~!」
元仲間の醜態をモニターで観賞していたハルトがソファの上で盛大に笑い転ける。それもお菓子を頬張りながらだ。
気分はまるで大道芸の観客である。
「流石はハルトの元仲間ね。頑固汚れのように主張する個性……見ていて飽きないわ」
その傍らで、いつもの事ながら魔王クロエがボーマン達を賛美する。
が――その両手にはもちろん、クッキーと紅茶のカップがある訳で。
「おい、クロエ。その言い方だと、俺も特殊な奴だと言ってるように聞こえるんだが?」
「それ以外にある?」
クッキーを頬張り、クロエが紅茶を啜る。
「いいや。けど勘違いするな! 俺が特殊なのは迷宮への愛あってこそだ。特殊性癖持ちのあいつらと一緒にしてもらっちゃ困る!」
「そ、そこは認めていくスタイルなのね……」
煽るつもりが開き直られてしまい、クロエもそれ以上ネタにできなくなってしまう。
「……しっかし、どんなクソ野郎が来るかと思えば。ハルト似の変人だった訳だ」
「んだとぉ!?」
「この調子なら、今のハルトでも充分に対処出来る筈だぜ」
「フン、そうでなくては困る。クロエ様の復活させるには、ハルトもより強くなってもらわねばな」
「えぇ……」
ネモとガリウスも椅子に座ってモニターの映像を眺めている。ハルトの元仲間が気になるらしく、クロエの了承を得て観賞中という訳だ。
「それにしても、どうしてこうも罠に引っ掛かるのかしら? 勇み足という訳でもなさそうだけど……」
クロエがボーマン達の失敗を不審に思い、彼等をよく知るハルトを見やる。
「多分、半分わざとだろうな」
「わざと?」
「そんで、半分本気。大方、罠を発見しても対処してやる、とか思ってるんだろうさ。本当に、何も変わってない……」
笑みを消して、ハルトは懐古と呆れの入り混じった言葉を吐き捨てる。
「多少なりとも罠を見破る目を養ったらしいけど……それじゃあまだ、俺には及ばない」
呆れ成分がやや多めではあるが、それは〝まるで成長していない〟ということを意味していた。
「……いよいよ宝物庫前に到達するぞ。そろそろ出撃した方がいい」
「ああ、変身しとく」
ガリウスの忠告でハルトが〝ハルベルト〟になろうとした直後だった。
『――くっ、情けない。これでは奴の言う通りじゃないか。やはり、アイツなしではっ……』
偶然、カメラのマイクが音声を拾ったのだろう。
モニターに映るボーマンが苦渋の面持ちでそのような事をぼやいていた。
『でも、そろそろ最深部の筈』
次いで聞こえてくるレシアの声。
『ハルト抜きで、この迷宮を攻略して魔族を倒せば、辛い思いをしただけの価値があるっ……そうすれば、ハルトとまた、あの時間を……っ』
「…………」
その場にハルトが居ないからこそ漏れた、二人の言葉。それは本来、彼等と直接会って聞くべき内容だったのだろう。
たとえ二人が核心的なことを言っていなくとも。
防衛に向かうハルトの足を縫い留めるには充分すぎた。
「ハルト、行きなさい」
――だがそれでも。
その背中に向かって、クロエは毅然と命令を下す。
「思うところはあるでしょう。けれど今は、彼等を歓迎するのが最優先よ」
ハルトは暫し黙り込んだ。そうして鋭く息を吐き切り、唇を引き結んだ。
「……行ってくる」
「今日も頼んだわよ」
平然と皆に告げてから、ハルトが防衛に向かう。
その言葉と背中には、ただならぬ覚悟が宿っていた。
「クロエ、今のって……」
ハルトがいなくなったのを見計らい、ネモが驚きを隠せない様子でクロエに意見を求める。
クロエは苦々しい顔で眉間を押さえた。
答えずとも分かる。ネモと同意見ということが。
「……中々、難儀なすれ違いをしたようね。もっとも、それにハルトが気付いたところで、今更何が変わる訳でもないけれど――」
それは、ハルトを信じているのか。あるいは、既に引き返せない段階にある事を示唆しているのか。
「真実は、直接聴く方がずっと良いわ。本当にね」
悲哀に満ちた表情で呟いたクロエは紅茶を一口含み、
「……冷めてしまったわね。ネモ、新しい紅茶を」
温かい紅茶を、新たに所望するのだった。
次回も翌日の同時刻でー!




