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魔王様リバイブ! ~美少女魔王と始めるエンタメ迷宮運営ライフ~  作者: お芋ぷりん
第4章 復讐するは追放者にあり!

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第3話 ムッツリすけべぇ

ハルトの元仲間。ボーマンとレシア視点です。

 




「ここが厨二ベルトという魔族がいる迷宮か」

「ハルベルトね。情報通り、変わった迷宮のようね」


 太陽が中天に差し掛かった頃、エンタメ迷宮の前に二つの影が立ち並んだ。


 くすんだ鎧と大盾を装備した青髪の大男。仏頂面を晒す彼の隣――入り口の看板を流し見した金髪の女はとんがり帽子のつばを軽く持ち上げた。続く大男も看板に書かれた内容を読み終え、気に食わないとばかりに鼻を鳴らす。


「ふざけた話だ。迷宮の魔物は外の魔物と同じ害獣。倒したところで何ら影響はない」

「ルールには従っておきましょ、ボーマン。魔族に報復でもされたらたまらないわ」

「ふん、ただではやられん」

「……男って生き物は。どうしてこうも負けず嫌いなの……?」


 普段の素っ気なさからあまり周知の事実ではないが、ボーマンはかなり好戦的な性格をしている。そのうえ融通も利かず、昔から困らされてきたレシア(金髪の女)はげんなりとして帽子のつばを下げた。


「しかしエンタメ迷宮か。冒険者の間では、命の危険がなく気軽に楽しめると評判だが、その手法と罠は卑劣極まりないと聞く。まさに、今のオレ達にうってつけと言える」

「ワタシ達の、最後の試練……」

「そうだ」


 その手に持つ杖に自然と力が入るレシア。


「でも、だからってわざと罠に引っ掛かる必要はないんじゃない?」

「無論、回避できるに越したことはない。だが、看破した上で相手の思惑ごと噛み砕く。それでこそ、成長の実感が得られるというものだ」


 ボーマンが掲げた拳に更に力を込める。そうして大盾に収納された直剣を右手で引き抜くと、異様なまでに決意と気合のこもった顔付きで、言う。


「奴がいなくても出来ることを――今日ここで証明するぞ」

「ええ。それを成し遂げたその時は……」


 レシアが俯く。


 ボーマンと同じく決意に満ちた表情。けれども、様々な感情――とりわけ不安が強いのか、ボーマンには若干緊張している風に見えた。


「レシア?」

「……なんでもないわ。さ、行きましょ」

「待て、俺が先頭に立つ。何があるか分からないからな」


 顔を上げ、レシアは何事もなかったように歩き始めた。盾を構えたボーマンも遅れて歩を進め、レシアを越えて先行する。


 擦れ違いの際。その横顔を見て、ボーマンは苦い想いをする羽目となった。


(……やはり、まだハルトのことを)


 ただでさえ怖い顔に力が入ってしまう。


 鏡を見ずともボーマンは分かっていた。今の自分が酷く渋い表情しているだろうことを。そしてその顔を、レシアに見られずに済んだと安堵する自分の存在さえも。



 ――二人の姿が入り口の闇に呑まれてすぐのこと。


 近くの茂みから姿を現した魔族達がそそくさと看板を回収し、代わりに「本日臨時休業」と書かれた看板を地面へと突き刺していた。


 それだけでは飽き足らず、冒険者にとって入り口であり出口でもある穴を、魔法で創り上げた大きな岩石で内側から封鎖したのだった。


 ◆◇◆


 一方、挑戦者であるボーマン達が作業員達の工作に気付いた様子はなく――


 四方八方に細心の注意を払いながら、一直線の通路をひたすら歩き進めていた。


「視認できる範囲に罠は見受けられない」


「私も同意見。こんな時、罠を看破できる魔法があれば楽なんだけどね」

「楽と言えば楽だが、迷宮の楽しみが無くなってしまうだろう」

「それもそうね。探索し甲斐が無くなる」


 流石は、ハルトの元パーティメンバーと言うべきか。〝迷宮での楽しみが減る〟と考える辺り、実に迷宮好きらしい発想だった。


(ハルトがいれば、罠の有無なんてすぐに分かる。けど、それじゃ意味がない。アタシとボーマンの力だけで乗り切って見せる……!)


 決意を新たに帽子を被り直したレシアはボーマンと共に最初のエリアに足を踏み入れる。


「む……床に矢印、だと?」


 真っ先に目に付いたのは床に白く塗られた矢印。更には、右に進めとばかりに進行方向まで指示されていた。


 あまりにあからさまな誘導に、ボーマンのこめかみに力が入る。


「挑発か。魔族め、舐めた真似をっ……」

「上等ね。いいわ、まんまと罠に掛かってやろうじゃない」


 本来なら、罠と分かっていて進む必要性はない。避けて通ればいい話。だが今回は、目的と上手く合致していた。


 二人はむしろ乗り気でエリア右の扉を開け放つ。


「こ、これはっ」


 次に二人が目にしたのは、エリア中央に積み上げられた本の数々だった。


「本の山? しかもこれは――っ、エロ本か……」


 レシアを意識して、男のボーマンが気まずいとばかりに顔をしかめる。


 近くで見ずともボーマンには解る。男女が裸で絡み合う絵が書かれた、いわゆる成人向け雑誌だと。


 だが生憎とボーマンにエロ本への興味は微塵もなかった。そして世の女性ならば、大半が恥ずかしがるか冷めた顔をするであろうエロ本を前に、レシアも少し息を飲んだだけだった。


「ごほん…………大方、夢中になってる間に別の罠が作動するタイプのものだろう。が、物事には何かと例外が存在するものだ。オレ達はエロ本などに興味はない。レシア、魔法で焼き尽くせ」


 反応がない。


「……レ、レシア?」


 だがすぐに、その考えは間違いだったとボーマンは思い知らされることになる。


「ぁ……んぅっ、はぁ、はぁっ……」


 レシアは並の男なら一目惚れするレベルで美しい。そう、(まご)うことなき美人なのだ。


 そのレシアが。美女魔法使いとして名を馳せるレシアが、エロ本の山に鼻息荒く擦り寄っていく。


「アタシには分かる……魔法使いとしての勘が言ってるわ――これは、()()()()()()

「な、なにを言っている……」


 エロの山の前で膝を折り、一つのエロ本を手に取ったレシアが真顔で断言する。それも頬を紅潮させたままで。


 そうして顔を引き攣らせるボーマンの前で、両手で本を開き深呼吸――。


「――いざっ!」

「な、なにぃぃぃぃっ!?」


 エロ本に顔面ダイブ。


 あろうことかレシアは、勢いよくその本に顔をうずめたのだ。丹念に顔を擦りつけ、あまつさえエロ本を堪能するようにして一心不乱に臭いを嗅ぎ始める。


「すぅぅぅぅっ、はぁぁああああっっ――――ふへへっ」


 そして顔を上げれば、まるで麻薬で幸せな幻覚を堪能したかのように蕩けた顔が〝ハイッこんにちは〟するではないか。


 彼女にとってエロ本こそ、まさに麻薬。それほど見るに堪えない酷い顔をしていた。


「や、やめろレシア!! よく考えるんだ! エロ本だぞ!? 誰が使用したかも分からないんだぞッ!!」

「だからこそよッ!!!! そこにエロ本があるなら手を伸ばせ! ページを(めく)り、食い入るように目に焼き付けろ!!!! それが、エロ本に対する礼儀ってものよ!!!!」


 これには、ポーカーフェイスで知られるボーマンも動揺するしかない。


「……ま、まさか。レシアにこんな趣味があったとはっ……オレが見てきたレシアは、いったい――」


 過ごした時間は三年と僅かなれど、冒険を通じてボーマンなりにレシア(彼女)という人間を理解してきたつもりだった。だがこの一件で、レシアへのイメージは脆くも崩れ去った。


 ボーマンはあまりのショックで項垂れた。


「さ、さしもの魔族も……まさか女のレシアが引っ掛かるとは夢にも思わなかったろう……だが、こんな物が罠だと? いや、そんな筈はない。なにか、何かある筈だ」


 一足先に冷静になろうとしたボーマンが辺りを見渡した時だった。後方を除いた前方と左右の壁が扉のようにパカリと開いた。


「ん? ま、まさかっ!?」


 直後、おびただしい量の水が激流の如く二人へ殺到した。


「やはりか! ――ごぼぼぼぼぼぼぉっ!?」

「――っぁぷぶぷごぷぷ!?」


 咄嗟にボーマンはレシアを盾で庇おうとしたが既に手遅れ。


 強い水流には抗えず、二人はさながら水洗トイレのようにエロ本(汚物)と共に部屋から洗い流されてしまった。


「……ぐ、ぬ……こ、ここは」


 次にボーマンが目を覚ましたのは、どこまでも同じに見える細長い通路。


 詰まる所、スタート地点であった。


「スタート地点に戻されたのか……やられたッ!」


 仲間を守る事こそ守護戦士(ガーディアン)の役目。此度の方針から罠に進んで嵌るのは先刻承知。その上で、ボーマンはレシアを守れなかったことへの憤りを拳に乗せ床を殴った。


遅れて、レシアが目を覚ます。


「……ご、ゴメン! まさか聖て――っ、エロ本があるとは思わなくて……」


あせあせと謝罪するレシア。


特殊性癖を隠していたことを反省――しているかはともかく、酷く申し訳なさそうにブンブン手を振る。


暗がりでうまく見えないが、ボーマンにはレシアが赤面しているように見えた。


「いや…………いい。人にはそれぞれ個性がある。今更、変に取り繕う必要もないだろう」

「……ボーマン。ありがと」


 ボーマン自身、レシアを守れなかった責任もあり、特殊性癖について深くは言及しなかった。だが決して。決して、ショックを受け過ぎて感覚が麻痺したとか、そういう訳ではない。


「これ以上、無様を晒せないわ。行きましょう」

「うむ。並の罠ではオレ達に通じんことを魔族に知らしめてやろう」


 気を引き締め、二人は頷き合った。


 このあと待ち受ける罠で、どちらか一方が醜態を晒すことになるとも知らずに――





ただハルトを追い出したわけではないようですね。

この光景をハルトはどう見るか…………


次回も翌日、同じ時間でっす。

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