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第5話 御伽噺と聖教会

説明回です。

新人賞での反省を活かし、地の文で淡々と情報を出すのではなく、キャラ達に説明させたつもり……

 




 ――夢を見た。


 それは、ハルトがまだ幼かった頃の夢。今からちょうど十年前の出来事だ。


 ある時、近所の店でイタズラしたことがバレてしまい、母に大目玉を食らった。具体的な動機までは思い出せない。だが、その夜に聞かされた言葉だけは、今でもハルトの記憶に鮮明に焼き付いている。


「――ハル。悪い事をしたら、誰だって罰を受けるのよ。あの〈残虐の魔王〉みたいに、ね」


 月明かりが差し込む夜の寝室。布団の中で身を縮める幼いハルトの前で、母――サリアが静かに、されど力強く諭すように言った。


「ばつ? ざんぎゃくの魔王って、なに?」


 怯えと好奇心の入り混じった声で、ハルトは小さく尋ねた。


「とっても悪い事をした魔族の王様よ。その昔、神の怒りを買って封印されたの……って、『異界の三勇者』のお話、したことなかったかしら?」


 小首を傾げる母に、ハルトはコクリと頷く。


 恐れは薄れ、物語への期待が瞳に灯り始めていた。


「よし、じゃあ折角だから話してあげる。これは、〈オネスティ王国〉が今よりも貧しく、小さな国だった頃のお話よ――」


 //////


 むかしむかし、あるところに、狡猾な魔族の王がおりました。


 豊かな暮らしを謳歌する人間たちを妬み、憎んだその魔族は、己の野望のままに、凶悪な魔物たちを率いて人間の地へと攻め入ったのです。後の世の人々に〈残虐の魔王〉と称されることになる、恐ろしい存在の登場でした。


 ()の黒き軍勢は街を蹂躙し、魔王もまた、その強靭な肉体で無数の命を容赦なく奪っていきました。大地は血に染まり、空は魔物たちの姿で暗く覆われたのです。


 王国は瞬く間に混乱の渦に呑まれ、滅亡の危機に瀕することとなりました。


 しかし、その絶望の中で、一人の賢者が立ち上がりました。その名はエリファス。のちに〈聖教会〉を創設することになる、高名な神官でした。


 彼は(いにしえ)より伝わる魔法によって、我々が生きる世界とは異なる遠き異郷から三人の勇者を召喚しました。


 神より【恩恵(ギフト)】を授かりし彼等は、王国を救わんと、エリファスと共に魔王に立ち向かうことになります。


 戦いは熾烈を極めました。


 稲妻が戦場を駆け、魔物達が狂乱の如く同士討ちを始め、異形の召喚獣が敵を屠っていく。勇者たちとエリファスは幾度も倒れかけながら立ち上がり、ついに魔王を追い詰めたのです。


 されど、魔王の生命力は尋常ではありませんでした。そこで彼等は四人の力を一つに合わせることで、魔王を永久の眠りへと誘う強力な結界の中に封じ込めることに成功したのです。


 かくして、人間界には待ち望んだ平和が訪れたのでした――


 //////


「――おしまい、っと」


 サリアは物語を締めくくると、ハルトの頭を優しく撫でた。


「とまあ、こんな感じかな。神様は決して悪事を見逃さない。ハルも天罰を落とされたくなかったら、もうイタズラはしないことね?」

「…………(コクコクッ!)」


 暗い寝室に響く母の声に、ハルトは小さな体を震わせながら必死に頷いた。


「うん、よろしい」


 サリアは満足げに微笑み、再度息子の頭を撫でた。その優しい温もりに、ハルトの緊張も徐々に解けていく。


 しかし、その時だった。


 月明かりに照らされたサリアの表情が、不意に妙な悪戯っぽい笑みへと変わったのは。


「……けど、私はそこまで信じてないんだけどね」

「えーと、なにが……?」

「魔王が悪い存在だってこと」


 その予想外な言葉に、ハルトは目を丸くした。


 たった今まで説教の材料として引き合いに出されていた魔王。その絶対的な悪役を、何故母は擁護するのか。幼いハルトには不思議でならなかった。


「な、なんで……?」


 震える声で尋ねると、サリアは慈愛に満ちた瞳でハルトを見つめた。


「この話、人間にとって都合が良すぎると思わない? まるで、そう――勝者が書いた歴史書みたいで」

「れきし書? 都合が良い??」

「ふふっ、今はまだ分からなくても、いつか分かる時が来るわよ。きっとね」


 その日、ハルトは母が残した謎めいた言葉の意味を、一晩中考え続けた――だがそれでも、答えは一向に出なかった。


 ただ、その夜に聞いたその言葉。それだけは、不思議と耳にこびりついて離れることはなかった。



 ◆◇◆



「――はっ!?」


 小走りで角を曲がったハルトは、突如目の前に現れた白亜の建造物に足を止めた。背筋に、いいあらわしようのない悪寒が走る。


 ――〈聖教会〉。


 その荘厳な建物は、あたかも広大な土地を睥睨するかのように鎮座していた。真昼の陽光が白壁を照らし、まるで神の加護を受けているかの如く、神聖な輝きを放っている。


「ヤバッ! ここ〈聖教会〉じゃねえかっ!? 俺としたことがっ……迷宮運営が楽しみのあまり、つい近道をッ……!!」


 ハルトは両手で頭を抱えて、苦い表情を浮かべる。馬車待合所への近道とはいえ、〈聖教会〉の前を通るルートを選ぶとは、なんたる不覚か。


(……でも、おかしいな。近道なら他にもあるのに……なんでだ?)


 ハルトは首を傾げる。


 まるで夢の中で見た何かが、糸で引くようにハルトを導いたかのようだった。その記憶は霞がかかったように曖昧で、何を見たのかすら定かでない。


(まあ、来ちまったもんはしょうがない。昨日の今日だし、流石にスカウトの件はバレてないだろ。ちょっと様子覗いてくか)


 魔王から迷宮運営のスカウトを受けた身。その事実を〈聖教会〉が嗅ぎ付けたら、どんな目に遭うか想像するまでもない。善の名の下に行われる粛清は、往々にして残虐なものとなるのだから。


 首筋を流れる冷たい汗を感じながら、ハルトは周囲を警戒するように視線を巡らせた。


「〈運命神ノルン〉様の御心は、世界の全てを導く! 魔族や魔物どもが生まれ、我々の手で生涯を終える――それ即ち運命! 神の思し召しなのです!」

「可哀想、と思う子もいるだろう。だが安心したまえ。奴等は理性なき卑しい獣。私利私欲を満たす為なら、殺人すら(いと)わない外道なのだ」

「「故に、我等は日々(浄化)しているのだッ!! この美しい世界を汚す邪悪な存在をッ!!」」


 神官たちが声を揃えて叫ぶ。


 境内の一角では、純白の法衣を着た神官たちが、十人ほどの子供達を前に説法していた。


 確信に満ちた表情で語る彼らに、ハルトは思わず顔をしかめる。


(相変わらず思想が偏ってやがる……まるで洗脳だ)


 善意の盾に守られた狂信的な熱意は、より一層歪んで見えた。


「でも、でも! 魔族さんだって、みんながみんな悪い人じゃないと思います!」

「ほう?」


 眼鏡を掛けたお下げ髪の少女が、小さな声なのに力強く主張する。その言葉に、神官の一人が鋭い眼光を向けた。


「何故そう思うのかね?」

「だって、人間だってそうじゃないですか? いい人もいれば悪い人もいて……魔物は別としても、魔族さんとはちゃんとお話ししてみないとわからないと思うんです!」


 稚い正義感に突き動かされたような少女の言葉に、周りの子供達も小さく頷き始める。


 だが、その反応は神官達の意に沿わないものだったのだろう。少女に詰め寄った神官が、薄ら寒い笑いを浮かべてその目を射貫いた。


「我々神官はみな、魔族と対話を重ねてきた。無論、大司教様やカインズ教皇もな。その上で悪と断定し、浄化に踏み切った。その我々が言っているのだぞ? 奴等は紛うことなき邪悪な存在だとな」

「で、でもっ、わたしたちは会ったことすら――」

「なに? もう一度言ってみろ?」

「…………申し訳、ありません」


 威圧的な眼力と声音で押し潰された少女。周りの子供も一斉に黙り込む中、二人の神官は「よろしい」と満足げに頷いた。


(嫌なものを見たな……)


 ハルトは子供達を不憫に思ったが、今できることは何もない。それどころか、余計な関わりを持てば命の保証すらない。


 苦々しい思いを胸に、参道を進む。教会の中では厳かな礼拝が行われているのだろうが、今の立場で中に入るのは自殺行為に等しい。信徒でない者には、禁忌の領域なのだ。


 参道の両脇には、精緻なレリーフが刻まれた石柱が立ち並ぶ。異世界から召喚された勇者たちが、初代教皇エリファスと共に魔王を封印する歴史的瞬間を描いたものだ。


 国王に功績を称えられ爵位を賜った勇者たちは、その後この地に永住を決意したという。彼らがもたらした異世界の叡智は、王国の発展を更に加速させた――と、記されていた。


 他にも、魔王封印の後にエリファスの要望を聞き入れた国王は〈聖教〉を国教として公認した、とも。


 今では大陸各地に十万人以上の信徒が存在し、老若男女問わず多くの人間が神官として在籍している。


「初代教皇が広めた御伽噺の後日談、ね……」


 魔王の蛮行に怒りを覚え、正義の旗印の下に立ち上がった聖職者――表面的には美談に聞こえるだろう。さぞかし立派な御仁だったと、多くの者が思い込んでいる。これだけの信徒がいる事実が、その証左だった。


 だが、ハルトにはそうは思えなかった。その裏には計算された意図を感じる。


 芝生の上に立ち並ぶ純白の石碑の前で、ハルトは足を止めた。


 浄化の証として飾られた魔族討伐の記録が、まるで勲章のように眩しく輝いている。集団で少数の魔族を追い詰め、時には幼子すら容赦なく抹殺したという()()の数々。


 そして、魔に属するものへの敵意や憎悪が尋常ではない現代の神官たち。


(善意や正義感だけじゃない。エリファスには、もっと別の思惑があったような気がするな……)

「――もし。何か御用でしょうかな?」

「ひっ!?」


 不意に肩を叩かれ、ハルトは背筋を凍らせながら振り返る。


 物腰柔らかな初老の神官が立っていた。慈愛に満ちた笑顔の下に、何か別の感情が潜んでいるような気がして、ハルトは更に緊張を強いられた。


「……そこまで驚かれなくとも」

「あ、いえっ! 考え事をしてたもので……!」

「これは失敬。もし悩み事でしたら、このわたくしめが相談に乗りましょう」

(いや相談できるか!? 初代教皇への疑念なんて口にしたら、お前ら絶対処刑するだろっ!!)


 老神官は、ハルトが悩みを抱えていると思い込んだようだ。だが、ここで本音を漏らすほど、ハルトも愚かではない。


「いえいえ! 悩みっていっても、昼飯のメニューを考えてただけですし!」

「そうでしたか。見たところ、あなたは信徒ではないようですが……どうです? この機会に入信されては」

「あーっと! 用事があるのをすっかり忘れてましたー! じゃ、失礼しまっす!!」


 入信を勧めてくる老神官から逃れるように、ハルトは全力で走り出した。魔王復活の件で、余計な言葉を口走る前に。今ここで情報を漏らしでもしたら、一巻の終わりだ。


(まさか気づかれた? 魔王の復活を手伝おうとしてることが!? いや、でも気付かれてたら即座に取り押さえられてる筈……!)


 必死に脚を動かしながら、ハルトは己の認識の甘さを痛感する。


 否、認識していながら、考えないようにしていたのだ。魔王に与することが、この国でどれほど危険な行為なのかを。〈聖教会〉の教えに逆らうことが、どれほどの代償を伴うのかを。


「……ふむ、おかしな小僧だ」


 初老の神官が顎を撫でる。彼はおろか、他の神官達にも知る由もないだろう。


 ハルトが走り去った本当の理由を。かつて封印された〈残虐の魔王〉が、復活に向けて密かに動き出しているという事実を。


 青空の下、聖教会は相変わらず威圧的な存在感を放っていた。





〈聖教会〉は神官達の言動からも理解できる通り、結構ヤバめな組織です。この組織が物語にどう絡んでくるかお楽しみに~!


     +


【降って湧いた自己満足寸劇】

作者「ブ、ブクマが少ない……面白くないのか? それともまだ、6話目(プロローグ込み)だから判断し辛いのか……? 読者の皆! 俺に意見を寄せてくれぇぇぇぇっ!!!!」

拙作「お、お待ちなさい!! 拙作(私)はまだひよっこですよぉ!!!? 読者の皆さんに何を期待しているんですか!!!!」

作者「ブクマと感想と評価とレビュー」

??「お芋ぷりんさん! 闇雲に求めるのは危険です!!!! もっと話数を増やしてからでも……!!!!」

作者「臆病者はついてこなくとも良いっ!! 俺は求め続けるぞぉ!!!!」

読者様「たった一人でかぁ……?」

作者「(破砕音)ぐぉおおああっ!!!? ど、読者の皆に潰されるとはっ……こ、これも作者の定め、か……――」

                                         (この始末)

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※2025/04/16に大幅な改稿を行いました。

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