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魔王様リバイブ! ~美少女魔王と始めるエンタメ迷宮運営ライフ~  作者: お芋ぷりん
第3章 魔界アイドル旋風、迷宮大騒乱!

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第17話 嵐の前の静けさ

 



「初日にも言いましたが、明日は生の防衛戦を撮らせていただきます。撮影は魔眼カメラで、現場に出るのも防衛要員の方だけという感じで、実況も――」

「…………」


 インタビューを終えた後。


 時間が余っていたこともあり、共有スペースで三日目の最終打ち合わせを行われていた。


 ゲッツォとクロエ、時にガリウスやリリカ達の声が聞こえてくる。が、ハルトの関心はそこにはなかった。


(あれってやっぱり脅し、だよな……)


 脳裏に浮かぶのは、客間での一件のことだ。


 リリカの下着姿、そして落ちた胸パッドの存在。それらを〝覗き〟という形で目撃してしまい、挙句『バラしたら殺す』とまで言われてしまった。


 しかし不思議なことに、あれからその件に関しての追及はなかった。着替えたリリカと共に共有スペースに戻り、クロエ達に報告を済ませ、今に至っている。


(この事、って胸パッドのこと……? いや、むしろそれ以外に脅される理由が見当たらないし……)


 でもその割には反応が淡白だったような……と、頭の中が疑問符で埋め尽くされていた時。


「――ハルト! 聴いているの!?」

「っ!?」


 そんな怒声と共に、ハルトの意識は現実に引き戻された。


「ク、クロエか。どうかしたか?」

「どうかしたか、じゃないでしょ。貴方も防衛要員の一人なのだから、ちゃんと打ち合わせには参加しなさい」

「悪い……ちょっと考え事してて」


 ハルトがそう言うと、溜息を吐いたクロエはしょうがないとばかりに肩を竦めた。


「気分が優れないようでしたら、休んでいても構いませんが……」


 プロデューサーのゲッツォが気遣うような優しい視線をハルトに向けてくる。


 恐らく、リリカにお茶を吹き掛けたことで、まだ気を揉んでいると思われたのだろう。ハルトは手を振って否定する。


「あ、いや。気分が悪いわけじゃないから、大丈夫」

「なら良いんですが……」

「それで、なんの話してたんだっけ?」

「「「はぁ……」」」


 クロエとガリウス、ネモの重い息が重なる。


 呆れのこもった溜息の三重奏が、今のハルトには少々辛かった。


「明日の防衛戦のことだよっ! ハルトくん! ボクが実際に防衛してみるのはどうかなって」

「リリカちゃん……」


 すると、正面に座っていた悩みの種であるリリカが顔を覗きこんできた。ニンマリと笑いながら、心の奥底まで見通すような眼差しで。


「私達とゲッツォは反対したのよ。魔族だから並大抵の相手には負けはしないけれど、万が一を考えてね」

「うむ。戦場には不測の事態は付きもの故な」

「リリカたんに危ないことはさせられねぇ。ハルトもそう思うだろっ?」


 クロエ、ガリウス、ネモが各々の意見を口にしていく。


 三人の意見はもっともで、ハルトも本心からそう思うが、


「ダメかなぁ……?」


 絶えず注がれるリリカの甘えるような視線。


 それが、ハルトには脅しのようにも感じ取れてしまい――


「――い、良いんじゃないか? 別に」

「ハルト!?」


 視線を逸らしながら、半ば反射的にそう答えてしまっていた。


 驚きのあまり、クロエが血相を変える。


「信じてたよ、ハルトくん! キミならそう言ってくれるってね」

「貴方、どういう風の吹き回し? 最初の打ち合わせの時は危険だからって心配していたじゃない」

「いや、まぁ……その、リリカちゃんって人を惹き付けるオーラがあるじゃん? もしかしたら、エモトロンも上手く稼げるんじゃないかなぁ~……なんて」


 怪訝そうな眼差しを向けてくるクロエに、ハルトはそれっぽい理由を並べ立てる。ほとんど本心ではあったが、それはリリカの圧に引き出されたものだった。


 ハルトの言い分を聞くなり、クロエは押し黙った。一理ある、と頭の片隅で考えたのだろう。少しして、マネージャーのルベルカに視線を向けたが、彼女は無言のままリリカの背後に立つばかりだった。


 そのリリカが、ふと手を叩き、首を傾げる。


「あれれ? 皆、どうしたの? まさか真に受けちゃった?」

「え?」

「冗談だって……! ボクはアイドルだよ? 身体は張っても命までは賭けないよ。まぁ、人間にやられるボクじゃないけどねー! あははははっ!」


 おちゃらけるリリカの笑い声が、静かな共有スペースに響き渡った。次第に、ネモや撮影スタッフ達が「なんだ、冗談か」「びっくりした」と口々に言い始める。


(なにを考えてるんだ……?)


 ハルトは、リリカの振る舞い全てが怖くて仕方がなかった



 ◆◇◆



「ハルトさん、少しお時間いいですか」


 打ち合わせが終わり、各々自室に戻っていく中、一人残っていたルベルカがハルトに声を掛けてきた。


「ルベルカさん!? おおお、俺にっ、なにか用ですか!?」


 途端に震え上がるハルト。


 リリカにお茶を吹き掛けた際、ルベルカから一切追及がなかったので、てっきり怒っているものかと思っていたのだ。その件でのお咎めが、あるいは覗きの件か。未だかつてない不安に胸が爆速で脈動する。


「実は、リリカのことでお話が……」

(やっぱりィイイイ!?)


 ハルトは、全身が雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。


「ここで話すのもなんですので、どこか別の場所で――」


 そうして、ハルト達は揃って移動した。


「あの、なんで……俺の部屋なんでしょうか」


 どうしてか、ハルトの部屋に。


「他の方には、あまり聴かれたくない話なので」

(今ここで俺を亡き者にしたいからかァァァァーー!!?)


 肩に垂らしたおさげ髪を指でつまみながら、ルベルカは淡々と告げてくる。


 椅子にも、当然ベッドにも座らない。ルベルカは入り口の扉で、ただじっと立っている。


「あ、あの。お茶、飲みます?」


 客を招待――否、半ば強引についてきた客をもてなさないのもどうかと思い、ハルトは〈ボロモウケ商会〉製の冷蔵庫を開けようと手を伸ばす。


「結構です。そんなことの為に来たわけじゃありませんから」

(やっぱ怒ってるぅぅぅぅっ! 一体どうしろとぉっ!?)


 が、呆気なく断られてしまい、ハルトは頭を搔きむしりたくなった。


 すると突然、ルベルカから話を切り出してきた。


「あの子に、脅されたようですね」

「えっ!?」


 ハルトの心臓が一段と強く跳ねる。


「な、なんのことですかっ? 俺には、何を言ってるかサッパリ――」

「隠さなくて大丈夫です。全て知っていますから」

(終わったァァァァァァァァァァァッ!!)


 その一言で全てを察し、ハルトはその場でへなへなと崩れ落ちた。


「…………はい、俺がやりました。怒鳴り声が聴こえたからって、ノックもせず覗いてしまった俺が悪いんですぅぅっ!!」


 観念して、罪を懺悔するように全てを吐き出したその時。


「あぁ、いえ。全て見ていましたが、それは大した問題ではありません」

「…………はぇ?」


 まさかのお許しに、ハルトの口から非常に情けない声が漏れる。


 どういう意味かとハルトが戸惑っていると、ルベルカは目の前でいきなり深く頭を下げた。


「る、ルベルカさん……!?」

「あの子には、少し込み入った事情があるんです。無理に仲良くしなくて構いません。でも、嫌わないであげてください。お願いします……」


 責められるとばかり思っていたハルトは、酷く戸惑った。肩透かしにも良いところだった。


 しかし――


(なんなんだ……リリカちゃんがあんな態度を取る訳が、なにかあるのか……?)


 ルベルカの、リリカに対する気遣いや優しさの表れ。そして含みのある言葉に、ハルトの心は揺れ動くばかりであった。





いつも読んで下さり、ありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字などがございましたら、ページ下部から遠慮なくどうぞ!



次の投稿は、6/20の夕方以降の予定です。

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