第16話 覗きと虚乳、そして――
この章の転換点――物語が急激に進むエピソードご開帳!!
両手に新品のタオルを数枚抱えたハルトは、早歩きでリリカの客間に向かっていた。
頭を駆け巡るのは、リリカの顔面にお茶を吹き掛けた時のこと。
「笑って許してくれたけど、あれ絶対怒ってたよなぁ……」
人は本音と建前を使い分けて生きている。
もちろん本音ばかり話す者も居なくはないが、それもごく一部。リリカの謝罪を素直に受け取ろうにも、しでかしたことへの罪悪感が大きすぎた。
リリカ来訪の為だけに拡張した居住区の通路を慣れない足取りで進み――
「たしかここだったな」
ハルトは、リリカの客間の前に立った。
辺りを見渡すと、リリカに付いて行ったルベルカ達の姿がない。
(ルベルカさん達は、中か……そりゃそうか。着替えや化粧直しもあるだろうし)
だとしても、やることは変わらない。
入る前にノックをしようと、ハルトが部屋の扉に手を伸ばしたその時。
「――なんで、なんであの三人は、ボクになびかないっ」
「!?」
ドア向こうから、非常に苛立った声が響いた。続けて、何かを殴ったような鈍い音も聞こえ、ハルトは寸前で踏みとどまる。
(リリカちゃんの声、だよな? やっぱ怒ってるよな……てか、三人って何のことだ?)
扉向こうから聞こえる音と言葉を不審に思い、ハルトは眉をひそめた。
すぐに前後左右を見回す。
(誰も居ないな……まるで覗き――いや、正真正銘その通りだが、仕方ない)
ハルトは躊躇いがちに扉のノブを捻り、扉を軽く開けて隙間から中を確認した。
そこには、先ほど天使の微笑みでハルトを許したリリカが――
「あぁもうっ……ホント、気に食わないったらありゃしないっ!」
彼氏の浮気を知った彼女のように、怒り狂った形相でベッドに八つ当たりしていた。
――それも下着姿で。
「え…………」
「はぁっ、はぁっ……………へ? ハルト、くん……?」
「あ」
驚きのあまり、更にドアを押してしまったハルト。開いたドアに気付き、困惑して顔が強張るリリカ。
二人の視線がかち合い、はんだのように固定される。
「……い、いや待て。何か誤解している俺はただ謝るついでにタオルを届けに来ただけで……」
ハルトが慌てて弁解を試みた。
その直後だった。
「ん? うぉぉっ!!?」
「え?」
暴れていた拍子にでも緩んだのか、ブラジャーの肩紐がリリカの肩から大きくずり落ちた。 同時に、肌色の何かも床にポトリ。
ハルトの目に薄い胸がこれでもかと突き刺さる。
が、その意識は落ちた肌色の何かに――
「なっ――虚乳だと!!?」
そう、いわゆる胸パッドに向けられていた。
主に女性が無い胸をあるように見せかける為に使われる、女の秘密道具である。
(お、おおおおッ落ち着け童貞ハルト一七歳! いま俺が取り乱せば、リリカちゃんは動転するに違いない……! ここは元彼女持ちとして、紳士的なフォローしなければッ……!!)
かつてない窮地に、珍しくフル回転したハルトの脳は瞬時に最適解を導き出す――!
「気に病まないでくれ。貧乳はなにも恥ずべきことじゃない、むしろ誇るべきことだ! 俺達人間にも貧乳愛好家なる者がいる。だからあまり悲観しないでくれ」
――結果、ハルトの口はとんでもないことを吐露していた。
(って、何言ってんだ俺はァ!?)
覗きの言い訳にしては、フォローする点があまりにおかしい。
表面上は冷静に、されど内心焦りまくっていたハルトは、親に叱られる子供みたく目を瞑って裁きを待った。
しかし、悲鳴は一向に飛んでこない。
(……ど、どうなってるんだ?)
不思議に思い、ハルトは恐る恐る瞼を上げていく。
さて、被害者のリリカはといえば――
「えーと、ありがとう……? あ、タオルはそこに置いといてくれる?」
ザ・平然。
コテンと首を傾げ、笑顔を頬を掻いた。あろうことか、覗き魔にお礼まで言う始末。リリカは胸パッドを拾うと、冷静にブラジャーを付け直す。
(え…………えっ!? 言葉のチョイスおかしくね!? 反応淡白だし! ここは、『いつまで見てるのよ! この変態!』とか言って、頭を殴打してくる流れだろっ……普通!)
想定の真反対をいく反応に、ハルトは更にパニック。
そうして動揺と冷や汗を隠すのに必死になっていると、
「後ねー、ハルトくん」
「な、なんだー?」
声を掛けてきたリリカがニッコリと笑顔を晒す。
そのまま、ゆっくりと歩み寄ってきて――
「ぐべっ!?」
次の瞬間、ハルトは胸倉を強く掴まれ、扉近くの壁に叩き付けられていた。
「いっつつ……何する――ヒッ!?」
尻餅をついた途端、左肩の上の空間にダンッと鋭い蹴りが入る。
ハルトの視界に、レースが入った白のショーツが無防備にも晒される。が、ビクつくハルトにそれを眺める余裕はない。
前のめりにハルトに近付いたリリカは、ドスの効いた底冷えする声で耳元に囁く。
「この事バラしたら、キミのことぶち殺すから――覚悟してねっ♡」
「…………は、はひ」
そう言って離れたリリカは今まで通り――老若男女に元気をお届けする〝超新星アイドル・リリカ〟としての笑顔を浮かべていて……
そのギャップから繰り出された脅しに、ハルトは素直に頷く他なかったのだった。
リリカの言う〝このこと〟とは何を差すのか。
アイドルの裏の顔を見せたリリカの真意はいかに――
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